3.合成樹脂について

合成樹脂は保存処理に良く使われる接着剤である。 合成樹脂はポリマー(重合体)の一種で幾つかのモノマー(単量体)から出来ている。 このモノマーが他のモノマーを持つ物質と結合しポリマーを構成する。 合成樹脂は大きく熱可塑性の樹脂と熱硬化性に分けられる。
熱可塑性樹脂はモノマーが2次元(平面)で構成され様々な溶媒で溶かすことが出来る。 熱可塑性樹脂は基本的には溶媒で解けいつでも分解可能であるが、熱や光に当たることで分解不可能な部分が出来ることもある。 熱や光が線状分子を架橋(クロスリンク)させ、熱硬化性樹脂に特徴的な3次元構造を作り出すことがある。
熱硬化性樹脂はモノマーが三次元構造を作り出し、いかなる溶媒でも解けることはない。 ただし溶媒によっては樹脂を膨張させゲル状になることもある。 最近一般的に使われている熱硬化性樹脂にはエポキシ、ポリウレタン、スチレンなどがあり、これらは触媒によって硬質化する。
保存処理では様々な合成樹脂が使われ、これらの樹脂は改良、または新しい樹脂が開発されている。ここでは特によく使われる樹脂を紹介する。

1.Polyvinyl Acetate (PVA)ポリ酢酸ビニル 

2.Paraloid B-72 パラロイドB72

3.Cellulose Nitrate 硝酸セルロース

4.Polyvinyl Butyral ポリビニルブチラール

5.Polymethyl Methacrylate (PMM)ポリメタクリル酸メチル

6.Polyvinyl Alcohol (PVAL)ポリビニルアルコール

7.木工ボンドなどその他

8.Epoxy エポキシ樹脂

Polyvinyl Acetate (PVA)
PVAは多分有機物の保存処理に頻繁に使われるもっとも一般的な合成樹脂である。接着剤や硬化剤として使われる。 様々な粘性率のものが販売されている(V1.5-V60など) 粘性率が低いものは分子量が低く、小さな隙間にも浸透しやすい。その代わり粘着性が弱くなる。そのため粘性率が低いPVAは骨などの硬化剤として使われ、高いものは接着剤として使われる。また、熱によってPVAは硬質化するため布などを継ぎ合わせ、アイロンで固めることもできる。
PVAは光に強く変色や分子構造がクロスリンクしにくい。溶媒によって簡単に分解されやすいため湿気の多いところでは注意が必要である。 土器の修復などに良く使われる。 PVAは金属以外のほとんどの物質に使える。 特に骨や他の壊れやすい有機物に粘性の低いPVAを表面に塗ることで硬化させる。遺物を直接薄めたPVAの中につけても良い。 この場合、しばらく放置し、乾かしてまた浸けることを繰り返す。 表面にPVAが着くと遺物の中まで樹脂が届かないため、軽くふき取ることを進める。 樹脂が乾く際、PVAが縮小するため細かい遺物が変形することがあるので注意が必要である。 樹脂をゆっくり乾かせば遺物を傷つけずに済む。
PVAは様々な溶媒に溶かすことが出来る。溶媒の揮発性の高いほど良く溶けるため、小さな隙間まで樹脂を浸すことが出来る。 溶媒の幾つかをリストアップしてみる。 揮発性の高い順に並べてある。
  

1.Diethyl Ether  ジエチルエーテル (水混和性)
2.Acetone アセトン (水混和性)
3.Benzene ベンゼン (水混和性)
4.Ethylene Dichloride 二塩化エチレン (無水混和性)
5.Methanol  メタノール (水混和性)
6.Methyl Ethyl Ketone メチルエチルケトン (無水混和性)
7.Ethanol エタノール (水混和性)
8.Toluene トルエン (無水混和性)
9.Xylene キシレン  (無水混和性)
10.Amyl Acetate 酢酸アミル (水混和製)

溶媒の種類によってPVAの使い方を変えることが出来る。 例えばPVAが乾くのを遅くしたい時はエタノール・PVA5-15%を使い、早く乾かす場合はアセトン・PVA5-15%を使う。 酢酸アミルを足すことによってPVAが乾くのを遅らせることが出来る。逆にエタノールを足すと早く乾く。 PVAはエマルション(樹脂が水の中に離散された状態にあるもので分子が水に溶け込んでいるわけではないもの)の状態で買うこともできる。これは水に溶かすことが出来使いやすく、土器の修復などには最適らしい。一度水が蒸発すると溶媒を使って樹脂を溶かすことが出来るが、水ではPVAは溶けない。PVAエマルションは接着剤用として販売されているのがほとんどなので遺物を硬化させたいときには必ず水で薄めて使う必要がある。 

Paraloid B-72
熱可塑性樹脂のB-72はPVAに比べ使いやすいといわれているが用途によって使い分けるべきである。 時間がたっても変色せず、熱に強く、PVAにくらべ表面のつやがない。 B-72は水、酸やアルコールに強い。 そして塗料などとも反応をしない。 PVAなどとも混ぜて使うことも出来る。 Texas A&M ではB-72を接着剤として使用している。 
B-72はアセトンかトルエンを溶媒として使え、またエタノールに溶かす(エマルションのような)ことも出来る。これにより樹脂が固まるまでの時間をコントロールする。 また、塗料などが塗ってある遺物など、アセトンが塗料を溶かす可能性がある時などはエタノールを混ぜて使うことも出来る(エタノールが塗料に影響がない場合のみ)。 B-72は水を浸透圧で通す性質があるので脱塩処理前に遺物を硬化することが出来る。骨など崩れやすい遺物を発掘してからすぐに固め、その後で脱塩処理がいつでも出来るため、非常に便利である。 

Cellulose Nitrate
酢酸セルロースは一昔前まで良く使われていたが、最近の他の合成樹脂の開発によりだいぶ使われなくなってきた。 PVAやB-72と同じように使えるが表面が崩れることがしばしばある。 酢酸セルロースはアセトンやメチルエチルケトンに溶けるが、エタノールやメタノールには溶けない。 一般的に出回っている接着剤は酢酸セルロースを使っているものが多いのでどこででも手に入りやすく応急処置が必要な場合などはすぐに使える。 ただし、なるべく早いうちに酢酸セルロースを溶かして他の合成樹脂に変えることを進める。

Polymethyl Methacrylate (PMM)
PMMの合成樹脂は世界中だいたいどこででも買えます。 商品名はいろいろあるので(日本のは調べてません)。 バイクのプラスチックグラス、ゴーグルなど(アクリル板のようなもの)を溶かして使うことも出来ます。 ただし溶媒が揮発性の高いもの人体に悪影響を及ぼすものが多く、あまり保存処理には向いていません。 
PMM樹脂を作るときはアクリルを細かく(グラインダーで)砕きます。 粉末のアクリルと大体同じ要領の溶媒(トルエン50%・クロロホルム50%)を混ぜ合わせます。注意:トルエンやクロロホルムは大変危険な薬品です!混ぜると熱が発生します。薬品の匂いをかいだりしないよう充分注意してください。 樹脂を薄めるときはアセトンを足してください。 
PMMに使える溶媒は少なく、また管理が大変です。 きめ細かな物質にも樹脂は浸透しやすい性質を持ってます。 エマルションを買うことも出来ますが、PVAやB-72などのほうが一般的です。

Polyvinyl Alcohol (PVAL)
PVALは水だけを溶媒としているのが特徴で、これを活かしてとても使いやすい樹脂です。 PVAと同じく粘性率の違いに分けて売られています。 PVAに比べ表面につやが出来にくいです。 乾いたときの縮小率が小さく、遺物を傷つける確立はPVAに比べ低い。 このため、布などの保存処理に使われることが多いようです。 水に浸かったままの骨や紙などにも使われます。 またアルコールに溶ける塗料を使っている遺物の保存には最適です。 ただし木材に使用するのには向いていないようです。 
PVALは水にしか溶けないため、使用する際には防腐剤などと混ぜる必要があります。 長期におよぶ熱、湿気、光などによってPVALが分解されクロスリンクする可能性があります。 保存処理専門家の中にはPVALを使った場合、3-5年に一度は再処理(塗りなおし)をする必要があると言います。
PVALを溶かすにはぬるま湯を使用してください。 油やアルーコールには強いですが、接着剤として使用する場合滑らかな表面には接合しにくいので注意が必要です。 

その他
ボンド、アロンアルファ、セメダインなどいろいろありますが、この上に紹介した物とほとんど成分が変わらないものが幾つかあります。 会社によっては成分をきちんとかいてあるところもありますが、使う際には注意が必要です。 

Epoxy
エポキシ樹脂は熱硬化性で様々な種類があります。 触媒を使うものそうでないものなどあります。だいたいどれも接着剤や硬化剤として使えます。樹脂が乾く際に縮小率がほとんどないため遺物を傷つける心配はありません。 ただし、一度固まると元に戻らなく、また時間が発つと変色します。 熱可塑性樹脂にくらべ数倍の力で固定されるので他に方法がないときには使われます。 割れたガラスの復元、また、型を取るときなど良く使います(ポリウレタンなど)。  

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コメント (1)

机上の液体のりの成分がPVALと記載されたいたため、検索で来ました。とても分かりやすい解説ありがとうございます。勉強になりました。

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