5.木材保存

木材の保存処理は水中考古学者、特に船の考古学を学ぶ者にとっては必ずと言っていいほどマスターしなくてはいけないであろう。最近では、元興寺や奈良などで糖アルコールなどを使った保存方法が開発されている。まだ一般的ではないがこれからどんどん普及していくと思われる。 ここではテキサスの保存処理クラスのマニュアルの翻訳なので、海外で一般的に使われている方法を紹介してある。 

木材の保存で大切なのは、一つの方法だけにたよるのではなく、様々な保存方法の中から状況に応じて最善の処理法を選択することである。 
シリコンオイルなども小さな遺物の保存にその威力を発揮する。 

有機物である木材は土に埋まるとだんだんと腐って分解されていく。 乾いた場所や水の中では長期にわたって保存される事がある。 沈没船では船材や他の木製品などが良いコンディションで見つかることがある、ただし完全に水を含んではいるが。

木材保存の成功の秘訣は木の構造を理解することが大切である。 木は大まかに分けて2つのタイプに分けられる―被子植物と裸子植物である。 被子植物・広葉樹の木材はは多孔性で導管が多い。 樫や樺の木はこの部類である。 裸子植物・針葉樹は導管が少ない。 末の木などがこの分野である。保存処理を施す前にせめて針葉樹か広葉樹であることを知っておくべきであるが、時には木の種別をする必要もある。

新しく切り倒された木は水分を失うために放射状(Radial)に3-5%ほど縮み、接線状(Tangential)に5-10%、縦材状に0.5% ほど縮みます。 樫の木は放射状に4%、接線状に8%に縮みますが、含水した樫は放射状に12%、接線状に24%縮むことがあります。 含水木を乾かす際、保存処理をすることによって縮みを最小限に留めることが出来ます。 

船を作る時、木材がどのように(どの方向から)切り出されたかによって縮み方が違ってくる。外板などを板目に抜いた(Flat-Sawn)材は縮小率の違いにより板がそることが多く、柾目(Rift-Sawn)の場合は縮小率が低いが、非常に効率の悪い板の抜き方のため、四つ割る(Quarter-Sawn)が頻繁に使われる。この方法で切り出された板は縮小率が小さい。切り出した方法により時にはどんな保存処理を施しても割れてしまうことがある。

木材の劣化・分解の理由は 1)物理作用―温度変化、湿度変化など 2)ムシ、動植物によるもの 3)菌類による分解がある。 菌類の発生は湿度が65%以下の状態であれば大体防げる。 含水木は形が原型を留めていても化学的にもとの材とは異質なことが多く、また、材の強度も極端に低くなることが多い。 

Waterlogged Wood
すべての木材は長く水に浸かっているとバクテリアが木の細胞壁を破壊する。まず、水に溶ける物質、デンプンや糖質が木から抜け出す。 その他にもなめし、色素、などが抜ける。 時間が進むと加水分解によりセルロースが分解され、リグニンのみが残る。そしてリグニンもまた除々に分解されてゆく。セルロースとリグニンの分解により分子の隙間ができ、水が浸透しやすくなる。細胞の間など隙間には水の分子が入り込み細胞壁を破壊していく。リグニンと中に入っている水が木の原型を一見すると保っているように見える。 セルロースが抜け出ても木の重量はほとんど代わることがなく、木はスポンジのように水を吸収しだす。 含水木は水に浸かっている間は形をとどめている。 一度水が乾きだすと表面張力と圧力の違いにより細胞が崩れ極端に縮小する。 縮小率の違いは含水量と木の分解の進行度によってことなる。木の含水率は次の式で計算する。

(含水時の重さ - 炉で乾燥させたあとの重さ)/ 乾燥させた重さx100

含水率が200%以上のときは分解が進んでいる木材とみなされる。 500%以上水を含んでいることも珍しくなく、ときには1000%に達することもある。 含水木は3つのクラスに分けられる。 ClassIIIの広葉樹が保存処理には一番難しいと言われている。
ClassI  400%以上
ClassII 185-400%
ClassIII 185%以下

Waterlogged Wood Conservation
含水木の保存処理は2つのプロセスから成り立つ。 1)木材の内に浸透し硬化する薬品(ポリエチレングレコールや糖質など)を使って木を強化すると同時に脱水する 2)脱水すると際に木の縮小を最小限に抑える(凍結乾燥など)。

良く使用される方法を書きに示す。どのような方法を使うにせよまず脱塩処理を済ましてから保存処理を行うこと。もし脱塩処理を完全に終わらせずに保存処理を始めると、保管場所すべての遺物に悪影響を与える可能性がある。

Polyethtlene Glycol (PEG) 
ポリエチレングレコール(PEG)はH₂OCH(CH₂OH₂)CH₂OHからなる合成物質である。 常温では分子量の低いPEG(300-600)は液体状で中間(1000-1500)は粘性があり、分子量の高いPEG(3250-6000)ワックスのような状態である。 PEGはいろいろな分子量で購入することが出来る。PEGはアルコール(エタノール、メタノール、イソプロパノールなど)と水に溶かしやすい。 一昔前まではPEG4000が吸湿性が高いことを理由に良く使われていたが、分子構造が大きいため密度の高い木材には浸透しにくいという欠点がある。そのため、現在ではPEG1500などが良く使われる。

PEGを使った保存処理方法は簡単で成功率が高かったため一般に普及した最初の木材の処理方法だと言えます。この方法はPEGが細胞を固めると同時に脱水することが出来ます。基本は木材を水に漬け、水温を60℃ほどまで上げます。 何日か何ヶ月おきにPEGを少しずつ(1-5%)足しています、ときには何年も保存処理にかかる場合があります。 PEGを足していく量・間隔は木の状態、大きさなどによってさまざまです。 PEGが20-30%ほどに達すると常温では固まってしまいます。 PEGは少しづつ木に浸透して水を置換します。 最終的にはPEGを70-100%まで高めます。 遺物はその後PEGから取り出され、表面のPEGを落としてから常温まで冷まします。 その後ドライヤーやお湯を使って遺物の表面のPEGを落とします。

PEGはアルコールと水に溶けますが、溶媒の値段を考えると水を使ったほうが、特に船などの大きな木材を保存する場合は安くすみます。 ただし水を溶媒として使う場合は殺菌剤を水に足す必要が時にはあります。(アメリカでは)Dowicide1(オルトフェニルフェノール)を 使っているPEG の重さの0.05-0.1%ほど足します (他の殺菌剤を使う場合はPEGや木材に影響がないかまず調べてから使うこと)。 17世紀のスウェーデンのヴァサ号の保存処理にはPEGの重量に対し1%の殺菌剤(ホウ酸7/10とホウ酸ナトリウム3/10)を使用した (Barkman 1975:82)。 小さな遺物に対してはアルコールのほうが使いやすい。 アルコールを使用したほうが処理時間が短くて済み、また仕上がったときの色が薄くまた軽い。処理時間を早めるのであれば遺物をエタノールなどにつけ完全に脱水してから処理を行う。 ただし、特に完全に脱水をしなくともきれいに仕上がるにで特に重要でない限りは脱水を徹底することはない。 アルコールを使うときには温度が上がり過ぎないように注意すること。 

PEGは金属を腐食させるので注意すること、とくに鉄には良く反応する。 PEGを使う場合、必ず鉄の付いていない木材に限ることと、遺物を入れる容器にも鉄以外のものを使うこと。

小さな木材を処理することは簡単なプロセスで出来る。ガラス、またはスチールの容器はどこででもあり、PEGの量もそれほど掛からない。温度が管理できる炉(オーブン)が必要である。大きな木材は時には何トンものPEGを必要とし、 遺物の大きさに合った容器、そして温度を一定に保ち液体を循環させる装置が必要となる。発掘の後に大きな木材の保存を予定しているのであれば設備と費用と検討し計画を立てなければならない。ここで紹介している木材保存法の中で、PEGと水を使っての処理が一番良く使われている。

Sucrose
スクロース(ショ糖)・砂糖を木材の保存に使おうという考え方は他の方法に比べかなり安く処理できると言う利点から開発された(Parrent 1983, 1985). 方法はPEGとほぼと同じでPEGの変わりにショ糖を使うというだけである。 木材を洗浄し脱塩してから以下の処理を行う。

1.ショ糖1-5%の水の中に遺物を浸ける。保存状況の悪い木材の場合、5%から始めると良い。 
2.DowcideAか他の殺菌剤を溶水に足す。 最初に入れておけば木材に染み込むので後で足す必要はない。
3.ショ糖を足す量、また次に足すまでの期間は木材の現状が悪いほど量は多く、期間は短くて済む。 最初は1-5%ぐらいから上げていき、50%を越えてからは10%づつ足していく。もし心配であれば1-5%のままで70%まで上げていく。 70%で木材は保存できたと考えてよい。
4.必要ならば昆虫や鼠などからの害を防ぐため薬品を混ぜることも考えられる。これは保存処理後の管理状況にもよるが、薬品を加えなくてもよいのであればそのほうが良い。 管理状況が芳しくない場合にのみ薬品を最初に殺菌剤とともに入れる。(もちろん木材、ショ糖などに反応しないものを選ぶ)
5.木材のなかにショ糖が浸透したら、遺物を乾かす。 この場合湿度を急激に下げないようにする。 湿度が下がると木材に亀裂が入るので、湿度を調節しながら保管・管理される場所の湿度に戻していく。
6.保管場所の湿度は70%以下が適切である。80%以上になるときの中からショ糖が染み出てくることがある。

砂糖を保存処理に使う場合、スクロースを使うべきである。 黒砂糖などは避けること。砂糖の種類によっては吸湿性の違いにより表面がいつまでも湿っているような結果となることがある。 スクロースを使用した場合はほとんど問題がない。

保管状況が管理できればスクロースで処理された木材は長期間保存することが出来る。 この方法は保存処理として確立され安価で処理できるとあって活用されている。 ただし、表面が色あせ、小さなひび割れが出来ることがある。木材の縮小率はほとんどなく長期にわたって大きさは変わらない。 保存処理に必要な機材はPEGを使う場合とおなじである。

Acetone-Posin
木材の中の水を松やにと置き換えるこの方法は分子量の高いPEGが使えないような比較的状況の良い木材を保存するために開発された (McKerrel and Varanyi 1972: Bryce et al. 1975).

1.遺物を洗浄し真水につけておく。(完全に脱塩すること)
2. 遺物を完全に脱水するために3回にわたりアセトンに浸して置換する。 5-10cmほどの厚さの木材では一回で4日ほどアセトンにつけ、新しいアセトンにまた浸ける。 厚さが5cm以下であれば2日ほどで良い。 松脂は水には溶けないので完全にアセトンと置換させることが重要である。 
3.容器に松脂を飽和させたアセトンと遺物を入れ、密封する。52℃に保てる場所で保管する。 松脂は工業用(不純物が混じっていないもの)を使い、粉末のものは避ける。 アセトンを松脂で飽和させると、67%ほどの松脂が溶け込んでいることになるが、容器に多めにいれ、底に松脂がたまっている状態にしておく。 遺物はこの沈殿した松脂の上に液中に‘ぶら下げておくか支えておく。 厚さ5-10cmほどのものは約4週間ほどで処理が終わり、5cm以下であれば2週間ほどで良い。 ただし、だいたいの目安なので木材の状況を見て判断すること。 
4.遺物を容器から出し、アセトンに浸した布で表面の松脂を落とす。

状況の良い木材を保存する場合、洗浄後脱水前に10%の塩化水素(HCl)に浸すと良い結果が得られる。 塩化水素に浸すことにより木材の有機酸を分解し松脂を浸透しやすくさせる働きがある。 長く浸すとひび割れを起こす可能性もあるが保存後に自然の木に近い色あいに処理できると言われている。 (PEGで処理を行う際も塩化水素を使うと自然の色合いに近くなるが注意しないと小さなひび割れや縮小率が高くなることがある)厚さ5-10cmの木材では4日ほど浸し、5cm以下の場合は2日ほど浸す。 その後、常に新しい水が流れている容器などに3-5日ほど浸けておく。 完全に塩化水素を除去することが大切である。 塩化水素を使った処理は遺物を傷つける可能性があるためおかなわれないことが多い。 

アセトンの代わりのエタノールやイソプロパノールを使うこともある。 また、アセトンを使って常温で処理することも出来るが、処理時間が大幅に延長する。

松脂を使った処理方法は木材の色が自然に近く、軽く、乾いていて、また強度が強い。 その他にも接着剤など合成樹脂が使いやすいと言う利点もある。松脂は金属に全く反応しないため、鉄と木が組み合わさった遺物(複合遺物)の保存には適している。アセトンが揮発性が高いことや松脂の値段が高いことから小さな遺物に対してのみの処理方法といえよう。 また、遺物の柔軟性を保ちたいときなどは使用は避けるべきである。 もし松脂で処理した遺物を曲げようとすると曲がる前に折れる可能性がある。

古いアセトン・空気中から水分を吸収した溶液を使用した場合には処理がうまくいかない場合もあるが、成功率は高い。値段が多少高く、処理が失敗する可能性もないわけではないが、もっと頻繁に使っていく価値のあるほぞんしょりである。 成功率はPEGと比べても高く、また縮小率も小さい。 

Alcohol-Ether
この方法は植物遺物の保存方法に似ている。 まず木材を洗浄し、脱塩、その後アルコール置換で完全に脱水する。 イソプロパノールかエタノールを使うのが一般的である。この後、アセトンに浸ける。 その後、ジメチルエーテルに浸してアセトンとエーテルを入れ替える。 この後、遺物をバキュームにかけエーテルを蒸発させる。 エーテルは表面張力が弱く(0.17dyne/cm)、水(0.72dyne/cm)に比べ乾くときに細胞壁に負担が掛からないため、形が崩れない。必要ならば10-20%ほどの松脂などをエーテルに加えることによって木材の形を保つことが出来る。 PVAなどを足しても良い。

この方法で保存された木材は木の自然な色合いを残し、また軽い。 乾燥させるために使うアルコールは新鮮なものを使う。効果的な保存方法ではあるが薬品の値段が高いため小さな遺物の対してのみの処理方法となる。アルコール、とくにエーテルは揮発性が高いため取り扱いには充分注意すること。 

Camphor-Alcohol
この保存処理方法はアルコール乾燥法と原理はほぼ同じであるが一時的な硬化剤を加えたものと言えよう。木材の中の水がアルコールに置換され、その後に樟脳(カンファー)に置き換えられる。 カンファーは細胞の隙間を埋めるが序々に昇華(固体から気体へ変化すること)するため、細胞に圧力が掛かることなく乾燥する。そのため木材の縮小率が小さい。 カンファーはすべてのアルコールに溶かすことが出来る。 

1.遺物を洗浄し脱塩する。
2.遺物をアルコール置換する。 木材の状態が悪いのであれば50%アルコール・50%水から始め、75%・25%、90%・10%などと段階を踏んでアルコールの濃度を挙げてゆく。 
3.乾燥処理が済んだ後遺物の重量を正確に測る。5%のカンファーをアルコールに混ぜ、遺物を52℃に保つ。 遺物の重量を毎日測り、重量が増えなくなったら新たに5%のカンファーを加える。75-80%で処理は完了する。 アルコールの量が減ってきたら足して常にアルコールのレベルを均等に保つ。 
4.処理後に表面の余分なカンファーをふき取る。アルコールはすぐに蒸発するがカンファーはしばらく残る。 ニス、ワックス、ポリウレタン、その他の合成樹脂(PVAなど)を遺物の表面に塗ってカンファーが抜けるのを防ぐこともできる。

この方法はアルコール乾燥法と同じく成功率は高いが薬品の値段が高いため大きな遺物には向いていない。 また揮発性の高いアルコールには充分注意が必要である。 

Frreze-Dry 
凍結乾燥方法は小さな遺物によく使われるが、遺物のサイズに合う容器があればどんな大きさの遺物でも処理は可能である(Anbrose 1970,1975; Rosenquist 1975; McCawley et al. 1982; Watson 1982).一昔前まではこの方法を使うと遺物の表面に小さな亀裂が入ることが知られていた。 これは遺物の表面に氷の結晶ができるため木材を傷つけるためにできる。 Ambrose(1970)によると、凍結乾燥処理前に10%のPEG400に浸し木材に浸透させることで氷の結晶が出来るのを防ぐことが出来る。この処理方法は瞬間凍結法には欠かせないプロセスであり、木材のほか皮製品の保存処理にも使われるようになった。 PEGは湿潤剤としての働きもあり、木材が縮むのを防いでいる。 

Watson(1987:274-275)によると20%以上のPEGを使うことで遺物を乾燥させ、木材の中の微生物・菌などを除去することが出来ると言う。 20%のPEG400は保存状況が比較的安定している遺物、10%PEG400と15%PEG4000の混合は状況の悪い遺物に、そして特に腐敗・分解している遺物にはPEG400を10%とPEG4000を25%で処理をする。 ただし、PEG4000を使う場合は処理期間が長くなる。 PEG濃度が20%以下の時、1%ほど殺菌剤を混ぜるとコケやカビの発生を防げる。 

PEGによる処理後、冷蔵庫に入れ凍らせる。 その後、冷凍装置に入れ-32からー40℃まで温度を下げる。-25℃からはバキュームを掛ける。 遺物の氷が昇華する際に重量が減るので、こまめに遺物の重さを量り、重量が変化しなくなったら処理は完了したことになる。木材は冷凍室から取り出された後、湿度45-60%の部屋で保管される。革製品などもほとんど同じ処理方法を使って処理する。

この処理方法は小さな冷凍室で可能だが瞬間凍結させるのが良い。 アセトンにドライアイスを入れる。 この中に遺物を数秒浸すことで瞬間凍結する。 霜が自動で処理できる家庭用冷蔵庫でも良い結果が得られたという報告もある。 バキュームなしでの処理では完全に乾燥させるのに何ヶ月も掛かることがある。 

このセクションに書かれている保存方法の中で凍結乾燥方法は一番設備投資にお金が掛かる。

SILICONE OIL TREATMENT
1993年からDr. Wayne Smith とテキサスA&M大学がポリマーを使った有機物の保存処理方法を開発・改良してきている。 含水木、ガラス、皮、コルク、とうもろこしなど様々なものの保存処理実験に成功している。 なめし、骨、その他の動植物遺物も保存できる。 この保存方法はこれから様々な大学、研究機関で使われることになるであろう。 保存方法をここでは簡単に紹介する。

1.遺物をエタノールに浸けバキューム(10Kg)に一時間ほどかける
2.脱水された遺物をアセトンに浸けバキュームに一時間ほどかける。
3.シリコンオイル(SFD-1)とイソブチルトリメソキシラン(?){isobutyltrimethoxysilane} 4%を混ぜる。イソブチルはシリコンのクロスリンカーとして使われる。 遺物を低いバキューム(5kg)で一晩待つ。 このとき、あまり強いバキュームはかけないこと。
4.遺物をシリコンオイルから取り出し、表面の余分なシリコンをふき取る。
5.触媒となるFASCAT-4200を小さな容器に入れ遺物と一緒に密閉したビニールに入れる。密閉したビニールごと52℃に保ち、触媒がシリコンオイルと木材を固めるまで待つ。

シリコンを使って処理した木材は自然な色合いで仕上がり、ほとんど縮小しない。 木材は非常に維持が簡単で他の方法で処理した遺物より湿気や熱に強い。 ただし、この方法は再処理が出来ないという欠点をもっているが、実際に再処理できる保存方法はほとんどないと言ってよいだろう。 

Reversibility in Artifact Conservation
再処理が出来る方法は今まで保存処理の基本的条件であった。しかし、再処理可能だということが課題に評価されていた。 例えば、木材から完全にPEGを抜き取ることは不可能であり、またそのプロセスに木材を劣化させる。 PEGは木の細胞、リグニンなどと結びつくため、これらのポリマーの除去は不可能である。 PEGで再処理する際に再び細胞壁を傷める可能性がある。 つまり、再処理とは結果的には遺物の寿命を縮めていることになる。 再処理の際に遺物を劣化させるため、再処理をしないほうが長持ちできた結果となるのである。

シリコンオイルでは非常に劣化した状態の悪い木材でもPEGでは細胞を傷つけるのに対して細胞にほとんどダメージを与えることなく処理できる。 シリコンオイルで処理された木材は保存状況が良いため、種別判定も簡単に出来る。

シリコンやポリマーを使った保存方法は実は再処理が出来ないわけではないが、遺物を極端に劣化させる恐れがあるため再処理する可能性は今のところない。 ポリマーを使った遺物の再処理の研究を進める動きも出てきている。 ポリマーが長期保存に適していること、保存処理期間が短くて済むこと、また簡単に出来ることがこの方法の特徴である。 これから様々な遺物がこの方法で処理されていくことであろう。

ここで遺物の長期保存の可能性について見てみよう。 一般的に使われる処理方法は保存可能期間が短い場合が多い。 そのため、再処理できることが第一の基本と考えられてきた。 PEG処理の場合、保管される場所の環境によって遺物の寿命が違ってきた。 水に溶ける薬品を使うため、遺物の中で劣化、腐敗が進んでしまうのである。

ポリマーでは寿命はほとんど影響がないといえる。 ポリマーの半減期は最低200年である。 また、保存処理に掛かる時間も短くて済む。 ウルブルン沈没船(1300BCE)から出土したガラスのビーズの処理に掛かった時間は約20分だった。 

古い方法に執着することは新しくアイディアの発展を妨げる。 シリコンがすべての問題を解決するわけではない。 ただ、この新しい方法が保存処理科学に“再処理問題”を再検討させるきっかけとなった。 シリコン・ポリマーを使った方法は今までの方法と併せて使っていくべきである。 これからもっと新しい処理方法が開発されていくことであろう。 

SUMMARY
木材の保存処理にはこのほかにもいろいろな方法がある。 重要なのはこれらの方法を駆使して問題を解決していくことである。 保存・管理される環境、条件においてどの処理法が最適であるかを検討し処理を行う。 色、湿気がコントロールできる環境にあるか、木材の強度、金属との複合遺物であるかなど考えることはいろいろある。 ここで紹介した方法はどれも成功率が高く一般的に使われているもので一つの処理法にしぼらず、条件に応じてこれらを使用していくことを進める。 

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コメント (2)

Stockholmの320年後に海中から引き上げられた戦艦(Vasa)を見て大変に興味深い経験をしましたが、その保存の苦労が良くわかりました。

VASA号は1960年代に引き上げられ、保存処理に20年もかかりました。建造当時、多大な費用を費やしたものの、処女航海で沈没。そのおかげで国の経済が大幅に傾いたといわれています。そして、今度は引き上げにも相当な資金をつぎ込み、保存処理にも時間と費用がかかりました。国の資金を2回もつぎ込んだ軍艦ですが、現在では北欧で入場者数No。1の博物館だと聞いています。

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