沖縄の水中文化遺産

 本日は、ブックレビューです。南西諸島水中文化遺産研究会編『沖縄の水中文化遺産』です。

タイトルからすると、少し堅苦しそうですが、実はとっても読みやすい本なんです。ずっと語り聞かせるような、お話を聞いているような、(話術の巧い人のプレゼンを聞いている?)ような…スタイルで統一されています。沖縄(南西諸島)の水中文化遺産・水中考古学の魅力を聞かせてくれる本です。テンポもよく、飽きが来ません。筆者のこの学問に対する情熱と、いろんな人に読んでもらいたい!そんな思いが伝わる本です。

第1章では実際の一つの調査例から水中文化遺産の研究の方法を見ることができます。淡々と調査の結果を語るのではなく、実際のプロジェクトの発端から苦労した点など物語のように描かれています。水中文化遺産の調査は水中に潜っての調査が多いかと思いますが、実は文献資料の整理や聞き込み調査など様々な側面があることを教えてくれます。また、筆者自身が知らなかった事実をどのようにして解明していったかとプロセスとその努力についてドラマ(ドキュメンタリー)のようです。事実や意見だけを述べる専門書ではなく、筆者の学びのプロセスも隠すことなく書いているので、歴史の専門書は苦手な人でも面白く読め、そして、共感を得ることができるのではないでしょうか?また、歴史の本が好きな人でも新鮮に感じ、そして、共感する部分が多いと思います。

第2章では世界や日本の水中文化遺産の事例、そして、第3章では沖縄と南西諸島の水中文化遺産について書かれています。こちらも、自分たちが調査した遺跡についてはその発見方法や調査方法、苦労した点などについて書かれています。遺跡の紹介だけでなく、その発見が大きな歴史の流れの中でどのような意味を持っているのかを捉えて紹介しています。水中考古学というと、どうしてもその特異性から「水中で発見されました、はい、すごいですね」で終わってしまうイメージがあるようです。特に、ニュースなどのメディアなどは「発見」だけがトピックとなってしまいがちなのですが、この本はちゃんと一歩踏み込んでくれます。沖縄の歴史についても初心者にわかりやすく情報を伝えてくれます。

そして、最後の第4章。水中考古学のメソッドなどについて書かれています。この本を通してのことですが、調査の様子などをわかりやすく、筆者の体験をもとに解説しています。水中での調査だけでなく、陸上の調査や文献資料なども詳しく書かれています。水中考古学とは、つまり特殊な学問ではなく、誰でも参加できる学際的な歴史の探求であることがよくわかると思います。

沖縄にある数例の遺跡の紹介ですが、水中考古学の世界がよくわかる1冊です。日本語で書かれた水中考古学の本はいまのところまだ珍しいので、ぜひとも読んでみたいですね。水中文化遺産はごく身近な存在であり、国民全体が共有の財産として保護していく必要がある貴重なモノであることを感じ取ってもらいたいです。

表紙もかっこいいです…

 

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