ユネスコ

ボリビアがユネスコ水中文化遺産保護条約を批准

ユネスコの水中文化遺産保護条約。海面下にある遺跡(文化遺産)を守るために造られた国際的な取り決めです。現在、50カ国ほどが承認・批准しています。

この度、南米ボリビアが新たに批准しました!

ところで、ボリビアと言えば…地図で見てみると…そう、内陸国です。海がありません。アンデスの山々が目に浮かびますね。そんな国でも水中遺跡の保護は重要なんです。チチカカ湖とかありますし、内陸交通には河川が重要です。また、経済もあまり良い状態ではありません。一人当たりのGDPは6,500ドルほど。

海もない、お金もない、そんな国ですが、水中にある文化遺産を守るために国が名乗りを挙げました。研究も、ほぞぼぞとではありますが、活動を続けています。これから、山岳地帯の水中考古学が発達するかもしれないですね。

 

 

UNESCO水中文化遺産 53か国目 (ガーナ)

非常に、地味なニュースかな、と思いましたが、UNESCO水中文化遺産保護条約に53か国目のメンバーが加わりました。

ガーナです…

2015年は、マダガスカル、アルジェリアや南アフリカが加わっており、近頃はアフリカ諸国にも水中文化遺産保護の波が押し寄せているようです。

つい最近までは、水中文化遺産というと、すぐに沈没船が連想され、そうなると、アフリカにとってはヨーロッパの船であったようです。そのため、国内でそれを自国の遺産として受け止めるには多少抵抗があったと聞きます。しかし、現在は、ヨーロッパとの関係も含め自分たちの遺産であり、また、水中文化遺産には実は自分たちのローカルな遺跡も多く存在することに気が付いて動き出しているようです。

ユネスコ水中文化遺産保護~ガイアナ共和国。48か国

クイックニュースです。

あまり名前も聞かない国ですが、南米のガイアナ共和国がユネスコの水中文化遺産保護法を承認しました。これで48か国。

スペインとトレジャーハンターと考古学。現地保存も…

数年前、アメリカのトレジャーハンター会社が沈没船を引き揚げ、莫大な量の銀貨が発見されたニュースを覚えているでしょうか?その後、時価数億円と言われた遺物をスペイン政府が自国の船であり、文化財保護の観点から遺物の返還を要求しました。その後の裁判において、スペイン政府が勝訴し、遺物はスペインのものとなりました。現在、その遺物が展示されているようです。

さて、そこで、良く聞かれるのが、トレジャーハンターの言い分です。今日は、ちょっと詳しく水中考古学者の観点から見てみましょう。

トレジャーハンターの言い分・・・沈没船の発掘には莫大な費用が必用。いま引き揚げなければ数年後には盗掘や台風・津波、底引き網や開発などで失われてしまう。莫大な費用の見返りとして遺物の売却が必要である。すべて記録として保存・研究ができるので、歴史にも貢献できる。引き揚げないと遺物も歴史も失われてしまう・・・ということが良く聞かれるが果たしで本当でしょうか?

考古学の立場

確かに莫大な費用が必要で、それは船を丸ごと引き揚げる場合。また、一度引き揚げると保存処理などを行う必用があり、永続して湿度・温度を管理する必要があり、非現実的な方法であることは確かです。現在の考古学の常識では船を丸ごと引き揚げることは中国など一部の力のある国でしかおこなうことはできません。水中遺跡は現地で非破壊調査による記録を行い、現地保存を行うことが常識となりつつあります。ユネスコ水中文化遺産保護では現地保存を第一オプションとしています。Nautical Archaeology Societyの水中考古学トレーニングマニュアル(200ページ)にも水中の発掘は『他の方法で保存できない場合のやむを得ない』行為として紹介し、数ページしかその方法について書いていません。

現地保存とはなんでしょうか?そのメリットは?水中遺跡は海底で砂に埋もれていれば保存状態は良好であり、数百年単位で保存が可能であると考えられています。(数千年前の沈没船も発見されていますし…)つまり、遺跡を安定した状態に置き、バクテリアの活動や砂の動きなどをモニタリングし、常に遺跡を安定した状態に保つことにより、お金をそれほどかけずに遺跡を保護することができる、といえます。しかし、この方法では何も研究できない!と思うかもしれません。しかし、実際には非破壊(非発掘・小規模トレンチ)調査でも充分研究ができます。

沈没船を丸ごと引き揚げると確かに膨大な資料が手に入ります。もちろん、これらの情報を今すぐにでも得たい気持ちもあります。それでは、例えば、陸の場合の考古学を見てみましょう。同じような状況が考えられないでしょうか?(我々水中考古学者は「水中と陸」の考古学の境をなくすことが目標。しいていえば、水中考古学者と呼ばれることに一番抵抗を感じるのは水中考古学者自身。実際にこの名称は対外的な名前で、水中考古学と自分では呼ばない研究者が多いです~この点に関しては後日解説しましょう!)膨大な量の考古学資料を得られる遺跡として、平城京跡地を見てみましょう。今、平城京跡地をすべて完掘する計画を国民は受け入れることができるでしょうか?もしくは平安京、博多遺跡群など。同じような莫大な資料を得るとともに、莫大な費用も掛かるし、研究も追いつかないでしょう。そのため、陸では開発行為がある場合においてのみ調査が行われる場合がほとんどです。これらの陸の遺跡を発掘するための費用を出土した遺物を売ることで賄うという考えは生まれますか?それよりも今、発掘できるところを小規模ながら進めていき、研究もすこしづつ進めていく方法を取っています。これが陸であれ水中であれ考古学という学問が置かれている状況にあると思います。そのための現地保存があります。

水中遺跡の多くは開発との共存が比較的楽であることが考えられています。海の上に構造物を建てる際には多くの場合、数10メートル単位でプランの変更をすることが可能です。実際に、アメリカ・メキシコ湾では、海の上に構造物をつくる際には考古学の事前調査を行うことが義務化されており、油田から敷かれたパイプライン工事の事前調査などで2000件以上もの水中遺跡が発見されています。他の国々でも、工事に先立ち水中遺跡が発見されるケースは多く、それらの遺跡を保護するため工事の計画を少しずらして行う場合がほとんどです。この場合、遺跡の特徴など非破壊調査で記録を残すことが重要です。

さて、現地保存のメリットをもう少し見てみましょう。遺跡保存の考え方の一つに活用という観点があります。地域に遺跡の重要性を知ってもらい歴史を守る大切さを考えてもらうこと、とここでは簡単に説明をします。無機物など比較的水中で安定した状態にある遺跡は一般公開をし、地元だけなく観光客を相手に遺跡ツアーを行っている場所も多くあります。太平洋やカリブ海の小さな島などはダイビング産業で地域の経済が成り立っている町や村も存在しています。そこに住む人々にとっては大切な文化資源として水中遺跡があります。その経済基盤を研究目的で莫大な費用をかけて引き上げることはできるでしょうか? それよりも、地域と協力をし、可能な限り現地で保存をしながら研究を進めることが最善であると考えられます。もちろん、定期的に訪れる研究者も地域の経済にプラスの効果をもたらすので、お互いの関係は継続してプラスになっていくことでしょう。

少し余談になりますが、世界の海難事故のデータを見ると、沈没事故の9割は港の近くなど水深50mよりも浅い場所で発生しています。つまり、陸に近く今でもアクセスしやすい場所です。陸に近いと実は水中遺跡の保護には向いていません。溶け込んだ酸素の量が多く(有機物が腐りやすい)、また、砂の動きも多く、ダイバー、漁業、開発なども遺跡の破壊につながることが多々あります。そのため、しっかりと水中文化遺産の保護の観点から遺跡の場所を把握し管理することが最も望ましいと考えられています。その逆に、深海(公海)には沈没船はほとんどありません。深い海ほど遺跡は安定した状態にあり、今、手を付けなくとも数百年その状態を保つことができると考えられています。安定した状態にある遺跡を掘る必要は特別歴史的価値のある遺跡でない限りあまり考えられない、というのが考古学者の考え方のようです。

ここまで少しダラダラと文章をつづってきたが、まとめてみましょう。遺物を引き揚げ売却を行う行為(または場合によっては地域の現状を考えない研究行為)は、その時だけは誰かが得をするけど、継続してみんなが共有することはできなくなります。また、遺物の金銭的価値を基準とするため、本当に歴史的価値のある遺跡が発掘されるケースも少なくなります。大量生産された商品は考古学・歴史価値が少ないので、あえて発掘する必要はあまりありません。水中遺跡で行う研究は、1)遺跡がどのように地域の人々と関わっているか、2)遺跡がどれだけ安定した状態であるか、3)非破壊調査や小規模発掘などからどのようような歴史・考古学価値のある遺跡であるか、などを主に考えることが第一目的です。それらの情報をもとに、どのように保存・活用していくかを考えます。様々な条件を吟味し、もしくは、発掘というオプションも考えられます。その場合、遺物は地域に還元するために博物館などでしっかりと管理されるべきでしょう。

NHKでもユネスコ水中文化遺産

先週、NHKでユネスコ水中文化遺産について取り上げられていました。おもに今年1月に20カ国がこの条約を採択したために日本国内でも水中文化遺産保護の動きが出てきたことによるものでしょう。

 

9月9日「クローズアップ現代」(NHK、第一)

http://www.nhk.or.jp/gendai/

9月11日「きょうの世界」(NHK、BS2)

http://www.nhk.or.jp/kyounosekai/lineup/20090907.html

 

このプログラムをみた人は何か意見でもあればぜひ書き込んでみてください。番組はおもに水中文化遺産のおかれている諸問題を取り上げています。遺物の商業目的での売買を禁止するユネスコ側の主張とインドネシアなど商業的見返りがなければ水中文化遺産の調査・保護には資金を捻出できない国、そしてとレジャーハンター側の主張を対比させています。とくにNHK側の主張などもなくいろいろな意見を取り入れ、情報を伝えるという意味では良くできた内容でした。

 

個人的にもう少し詳しく取り上げてもらいたかった面は

1)もし売買が公に認められれば商業価値のある沈没船が引き上げられ、考古学価値のある遺跡は無視される可能性があること

2)考古学価値のある遺跡の調査のあとに博物館などの設置により地域の経済の活性化が行える可能性も十分あること

3)なぜ水中に遺跡があるというだけで売買が可能という論議が産まれるのか?地上であれ水没した遺跡であれ、ともに考古・歴史の価値はかわらないのでは?遺跡の立地条件だけで遺跡の価値を判断できるものなのか?

4)ユネスコの条約ではガイドラインがあっても違法行為の取り締まり罰則などについては何も触れていない。そのため、執行力にかける条約であること。この条約の問題点としてよく取り扱われていますが、ここでは触れられていませんでした

5)上の2)にも関連しますが、考古学調査で成功した例をもう少し取り上げてほしかったこと。例えばオーストラリアやトルコなど水中文化遺産保護に積極的な国の成功例など

ユネスコが水中文化遺産保護条約への理解を促進するため動画を作成

上記のサイトでは、ユネスコ水中文化遺産保護条約の概略を説明した動画を見ることができます。日本語のバージョンはありませんが、映像からその内容を何となく理解できるのではないでしょうか。インターネットの環境によっては再生のスピードに問題を感じるかもしれません。動画は短くまとまっており、水中文化財や遺跡が保護条約のなかでどのように位置づけられているのかを説明しています。条約が国連海洋法にもともと定められていた水中文化財・遺産の保護を補完することを意図していることが述べられています。また動画の後半部では条約が保護だけを目的としたものではなく原位置保存を前提にした、水中遺跡の一般への開放を重視していることが述べられています。動画で使われている水中遺跡の調査シーンには偏りがあり、必ずしも学術的に評価されている調査の映像を使ったものでないとの批判も出されています。