1.深海考古学の基礎

考古学は日々発達しています。 新しいテクノロジーを取り入れ今まで想像もできなかった調査方法も可能になりました。 時代の最先端を進む考古学、今までに誰も見ることを許されていなかった深海に眠っている沈没船を探し、それを考古学的に調査する学問、それが深海考古学です。 

ここ数年前から気になっていた考古学への新しいアプローチを最近になりもっと本格的に学ぼうと考え始めました。 今年から深海考古学の授業がテキサスA&Mでも初まりました。 個人的には2004年の長崎・五島列島沖の旧日本軍潜水艦の調査やバラード氏(タイタニックを発見した先生)や他の深海考古学を始めている先生方とコネクションを持つようになったのでせっかくだから日本にも深海考古学の基礎を広めようと考えています。   

深海考古学とは通常ではスキューバなどでは潜れない(水深75m以上の)海底面にある沈没船を探査する学問である。 日本ではもちろんのこと世界的にまだそれほど認知されていないが、ここ最近調査例も増え、一般的知識として受け入れられつつある。 アメリカ、フランス、ギリシャなど世界各国で取り組みを始めている

(Photo from Dante B : Project in Greek with Dr. Shelley W)

テクノロジーだけにお金を使いあまり考古学的意味が無いような見解もあるがそれは大きな間違いである。 すでに海底ケーブルの工事・点検や天然ガス・石油などの採掘のために海底で作業するためのテクノロジーは日々使用されている。 深海考古学に必要なテクノロジーはすでに存在している。 考古学者がこれらの技術を取り入れて”未知の考古学”へ挑戦していくことが今必要とされている

1970年代、まだGPSやコンピューターなどが普及する以前から深海考古学への可能性は語られてきた。 イギリスや他の国々の沈没船の記録を探ってみると半分以上の船が沈没、または座礁しているという。 そのうち80%は浅瀬などに乗り上げているが、残りの20%は消息不明か深海に沈没したとされている。 単純計算でも相当数の船が深海に眠っていることが分かる。 そして深海にある沈没船は保存状況が良いといわれている。 それには主に次のような理由がある。  

1.波の影響をほとんどうけないため木材などが崩れにくい

2.温度が低いため化学反応が遅く、また環境が一定しているため有機物などが残りやすい

3.深海は砂地が多く船が砂に埋もれることによって遺物は無酸素状態に包まれる。この状態で有機物はバクテリアやフナクイムシなどの被害を受けにくい

4.トレジャーハンターなどの被害を受ける確立が低い      

つまり、深海では他の場所では考えられなかったほど完全な形で過去の遺物(タイムカプセル)が存在していることを意味している。 では、これらの考古学の”宝”をどのように探し当て発掘し、歴史を解明していけばよいのであろうか? ここではざっと何を克服するべきかを考えてみよう。 広い範囲を短い時間、そして安くサーヴェイ(分布調査:沈没船の有無を調べること)しなくてはならない。 サーヴェイ機材や水中ロボット(ROV)などすべてGPSなどと連携し位置などをはじめ、動きなどすべて記録(録画)されるべきである。 これらの機材は24時間体制で数週間起動しなくてはならない。 大きな遺物を回収できる能力、小さな遺物、またはデリケートな遺物も正確に記録し回収する能力も必要とする。 これらの条件は現在の技術でほぼ克服できたと見てよい。 しかし、まだまだこれからテクノロジーが発達し、深海での発掘が今よりも簡単に行えるようになるのは誰の眼に見ても明らかであろう。    

音波調査で海底面の様子がわかる

ここで紹介した他にも様々な条件を克服しなくては深海で発掘することは出来ない。 では、深海での発掘に有利な条件とはなんであろうか? まず、ROVは個人の判断ではなく発掘チーム全体の意見を取り入れながら作業することが出来る。 すべての作業が共同作業であり、交代で24時間体制で発掘が行える。 例えばデリケートな遺物を発掘する際、チーム全体と相談しながら対策を練り、その間はROVを海底面に完全に固定させることも出来る。 
深海では時間や環境の制約がないのも好条件である(特に写真撮影など、すべて同じ光の下で作業可能)。 すべての作業をデジタルや他のフォーマットで記録を行えることも重要であろう。 深海での発掘は地上の発掘とは全く違った形、アプローチではあるが”考古学の基礎”は不変的である。 これから深海での発掘の方法論が徐々に出来上がっていくだろう。 

(Photo from Dante B : Project in Greek with Dr. Shelley W)

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