水中考古学の発展と関連法の整備

所謂、水中考古学の研究に関する先進国として、英語圏においてはアメリカ、イギリス、オーストラリアといった国をあげることができると思います。この3カ国のなかで、あえてオーストラリアの水中考古学研究の特徴をあげるならば、その関連法の充実ということができるのではないでしょうか。オーストラリアの水中考古学の発展はその関連法に支えられた面が少なくありません。ここではオーストラリアを事例に、水中考古学の関連法について考えてみたいとおもいます。

所謂、水中考古学の研究に関する先進国として、英語圏においてはアメリカ、イギリス、オーストラリアといった国をあげることができると思います。この3カ国のなかで、あえてオーストラリアの水中考古学研究の特徴をあげるならば、その関連法の充実ということができるのではないでしょうか。オーストラリアの水中考古学の発展はその関連法に支えられた面が少なくありません。ここではオーストラリアを事例に、水中考古学の関連法について考えてみたいとおもいます。

オーストラリアの水中考古学の発展させるきっかけとなったのが、1963年にダイバーによって西オーストラリアで発見された東インド会社船籍の沈船バタヴィア(Batavia)とギルト・ドラゴン(Gilt Dragon or Vergulde Draeck)でした。当時、スキューバ・ダイビングが徐々に普及し、上記の2隻の東オランダ会社船を含め、沈船に対するトレジャーハントとサルベージの影響は考古学者や文化財関係者にとって無視できないものになりつつありました。オーストラリア水域の沈船に関する法律で、当時あえて関連性を見出せるものは1912年制定の「航海法」ですが、これは沈船の所有者に積荷の所有権とサルベージ権を認めただけのものであり、遺跡・文化財保護の観点に立てば、効力を発揮しないものでした。そこで、西オーストラリア博物館は博物館法を改定し、その保護対象を水中の沈船に拡大することで、ダイバーによる遺跡破壊を防ごうとしました。また、実際に西オーストラリア海域の沈船に関する調査を進めるため、専門の調査員を置くことになりました。調査対象となった沈船はオランダ船籍の船であったために、オランダ政府との間で調査に関する合意が1972年ANCODS – Australian Netherlands Committee on Old Dutch Shipwrecksによって図られました。また、1973年には沈船のみを保護対象とした法律Maritime Archaeology Actを州レベルで制定することになります。

オーストラリアは各州政府が強い権限を持っていますが、やがて連邦政府も自国の海域の沈船保護の必要性を認識するところとなり、1976年に制定されたのがHistoric Shipwreck Actです。法律の制定過程では、西オーストラリアでの法整備の経験が活かされたのは言うまでもありません。以前、西オーストラリアでは沈船発見者のダイバー権利等に関する問題が、司法の場に持ちこまれたこともあり、関連法の制定が複雑な性格を帯びることを関係者は理解していました。その後1993年の法律改正で、沈船はより効果的に保護されるようになります。改正以前の法律では、沈船はオーストラリア首相によって歴史的に価値を有すると判断されて始めて保護対象となりましたが、改正後は沈没後75年を経過した船は自動的に「包括的保護」を受けるようになりました。文化財保護の観点から見れば、沈船にたいして、このように強い効力を発揮する法律は世界を見渡してもあまり例がありません。 

Historic Shipwreck Act 1976制定後、何度かの改正を重ねており、効果的に働くように今も議論が続けられています。現在では、75年という保護基準となる数値にたいして議論があり、また、保護対象を沈船以外の水中・水底文化財に拡大するべきとの意見が出されています。この連邦法が沈船を主な保護対象としたところから、オーストラリアではMaritime Archaeology=海事考古学が発達しました。しかしながら、オーストラリアの州なかには、かつては陸上にあり、現在は水中に没してしまった先住民族の遺跡を、州独自の水中文化財法で保護しているケースもあります。保護対象が広がることによって、オーストラリアの海事考古学の研究がさらなる発展をみる可能性もあります。

オーストラリアの海事考古学の30年以上にわたる関連法の整備から生まれた知識と経験は高い評価を与えることができるとおもいます。国際機関the International Council for Monuments and Sites (ICOMOS)文化財保護の概念を水中に拡大するために、1992年International Committee on Underwater Cultural Heritage (ICUCH)を専門委員会として組織しました。同委員会で最初の議長役を担ったのが西オーストラリア海事博物館のハンダーソン(Henderson)氏です。

日本では埋蔵文化財法で水中の遺跡を保護対象に含めることになっています。水中だけを特別視することなく全ての文化財を保護対象に含めることは、確かに重要な点であるとおもいます。しかしながら、オーストラリアが試行錯誤のなか、30年をかけて整備した関連法が、海事考古学の発展を支えた側面を持ち、現在は世界的にその努力が評価されていることを考えた際、日本における水中・水底文化財関連法の議論を軽視することはできません。例えば、日本船籍の船が自国の海域外で発見された場合、そのような事例に単に現行法を適用して対処するのか、あるいは十分な知識と経験に基づき文化財保護の点に立って対処するのかでは大きな違いがあります。水中・水底文化財の管理・保護が陸上の遺跡と同様に議論されるなか、今後日本においても専門的な知識と経験に基づいた関連法についての研究が必要だと考えられます。

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