違法サルベージの中国船、マレーシアが拿捕

中国の民間船が、マレーシアのEEZに存在する太平洋戦争中に沈んだ英国船プリンスオブウェールズ号から鉄くずを回収。その行為に対し英国などから批判を受けていたが、この度、マレーシアが介入し中国船を拿捕した模様。

https://www.jiji.com/sp/article?k=2023052901055&g=int

 

今回の船、長らくサルベージが行われていたことはわかっていたようで、イギリスのメディアも懸念を伝えていました。有名な船ですので、科学的調査も実施されています。

マレーシアのEEZというわけですので、中国政府が領土を主張とか、そんな海域ではありません。ネットなどでは中国政府の野心的なあおりが見られますが、そんなはずはありません。そもそも、民間の船です。中国政府が知りつつ野放しにしていた、というのであれば、文化財・所有権を無視した行動を容認したことへの批判はでてくるかもしれません。

 

問題は…「サルベージは違法であるが、拿捕に正当性がない」です。

 

大きな問題は、EEZは経済活動・資源利用以外は、公海と同じであること。マレーシアは、EEZに存在する文化財などに対して何ら規制を持っていません。つまり、今回の拿捕は、マレーシア側に何も法的根拠がないのに実施したことになります。

とはいえ、英国の所有権は明確です。つまり、英国は中国に対して抗議をすることは可能です。また、許可なしに過去の軍用船から遺物を引き上げることは、国際法上の違反行為に当たります。罰則のような規定はありませんし、その行為を行っている船に対して実施できる行為も厳密にはさだめられていません。一応、これらの国有船舶を開発や違法な引き揚げから守るために必要な処置をとることは認められています。英国の政府から中国に対して正式に抗議、またはマレーシア政府に対して協力を求めるよう依頼があったのか…。それでも民間の船を拿捕するのは、国際法的には逸脱した行為のように思います。

 

英国は、懸念を表明してます。

What we need is a management strategy for the underwater naval heritage to inform a national approach to the 5000 or so naval wrecks.  リンク

ですが、拘束せよとは書いてませんね。保護の枠組みをしっかりと作ることが必要だ!としています。

 

水中文化遺産・軍艦などへのリスペクトは年々高まっており、これらを保護する機運が国際的な常識になってきていたのは事実です。ユネスコ水中文化遺産保護条約は現在70か国以上が批准していますが、英国・中国・マレーシアは批准していません。ところが、付属文章・規則(1996年のイコモス憲・リンク)には、どの政府も反対はしていません。まあ、つまりは、水中文化遺産や政府所有船舶への報告のない引き揚げ行為は、条約の批准状況や沿岸国の法律の有無にかかわらず国際的に何らかの処罰の対象となるべき行為であると、少なくともマレーシア政府は判断した、ということでしょうか?

中国政府が見過ごしていたのか…。これも難しいですね。少なくとも中国政府は、地域の文化遺産を守るリーダーである、という主張を近年打ち出しており、水中文化遺産の保護に積極的に取り組んでいます。中国側は、ここまで問題になる、まさかマレーシア側が拿捕するとは思ってもいなかったのでしょう(だって、拿捕する法的根拠がないから)。中国側は、今回の拿捕を講義することは可能ですが、それでも英国の船に対して行っていた違法行為に対しては責任を負う必要は出てくるかもしれません(民間船のオーナーが)。

 

日本は、どうでしょう…

日本もEEZ内のサルベージ行為に対して法的根拠で対抗できません。文化遺産のサルベージを資源の掘削にあたるとみなすことはできませんー国際法上文化遺産は資源ではないと定義されているので、これを覆す必要があります。日本側がEEZ内の中国の資源採取にたいしてこれまで拿捕したことはありませんよね、確か…遺憾に思う、というステートメントのみです。

また、多くの日本の船舶もすでに各地でサルベージされちゃってます。それらにたいして日本は行動をとって来なかった、見て見ぬふりをしてきました。巡洋艦などがフィリピンやインドネシアなどで回収されちゃってます。そう、中国と同じく見過ごしていました。まあ、さらに、領海内においても開発に対して船舶遺跡の保護がきちんと適応できているかというと、かなり怪しい。少なくとも英国・中国・マレーシアは、領海内において水中遺跡の保護を明確に示しており水中遺跡の管理を実践しています。

中国は、EEZや公海においても自国に起源のある文物の保護の権利を主張していますし、英国はユネスコ条約の批准の準備を進めています。

それに対し日本は、1)太平洋において、所有権が明確な沈没した船舶の大多数を持つ。2)最もサルベージの対象となった(なりうる)船が多いのに政府見解は皆無。3)水中文化遺産の保護に関する明確な法律が存在しない珍しい国。4)水中遺跡の保護にかかる直接予算は世界最低水準であるのに海の広さは世界有数の広さ。5)ユネスコ条約の批准については政府内で話題に上がる機会もほぼなく、検討・審議もされていない。

 

対岸の火事ではないのです…

 

ネットの書き込みなどで見受けられるコメントに対してコメント。

イギリス国民怒るだろうな→→日本の船もつぶされてますが…

中国政府は文化的価値感がない→→日本政府と中国政府の水中遺跡の取り組みの違い・予算規模を見てから判断しましょう。

 

しばらくは、どのように動くか見守りたいと思っています。英国の呼びかけに対して保護を進めて行く国際的な取り組みが実施されていくでしょうが…水中文化遺産保護の動きに半世紀の遅れをとっている日本…どうする?

 

 

英語のニュースですが、詳しく書かれています。

https://www.abc.net.au/news/2023-05-29/malaysia-detains-chinese-barge-on-suspicion-of-looting-wwii-brit/102408368?fbclid=IwAR3PnvJ5Q1FiWQB-bfb3_LR4nPOH1uI_Pdalrp1BgVzLQIDRsD44N6zVJK8

 

こちら、以前からサルベージが行われていたと書かれています。

https://www.nst.com.my/news/nation/2023/05/912141/british-govt-condemns-desecration-sunken-warships-thanks-malaysian#google_vignette

引き揚げられたベルが海軍博物館に展示されています。有名な船で何度も考古学調査が行われていた船のようです。

 

こちらにも、簡単に気になる点がいくつかあるのでご覧ください!

https://note.com/shipwreck/n/ndce726ca7f74

引用元:https://note.com/shipwreck/n/ndce726ca7f74

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