水中実測方の基礎

まず水中での実測の基礎的論理をのべてみよう。

言うまでも無く水中の発掘は困難極まりない場合がある 一般的にスキューバ・ダイビングで観光客が行くような綺麗な海とはわけが違う。 流れはきつく、透視度は低い。 2-3m見えれば良いほうである。 自分の位置、方位、また上を向いているのか下を向いているのかも解らなくなるときがある。 前にいる人が見えず衝突することもしばしば、ぶつかるまで見えないのである。流れがきつい為泳ぎながらの作業となる場合もある。

    そのためウェイトをたくさん持って潜り完全に固定して作業する場合もあるが、水中で動き回る必要もあるため、工夫が必要である。 鉄のポールを幾つか備え付け、それにつかまって作業する方法もある。 そして、一回で潜れる時間はわずか。 ウル・ブルンの発掘などはタンクを二つ背負って作業時間は20分弱。 また、深く潜ると体の中の窒素と酸素の比率の関係が狂うため馬鹿になる (酒に酔ったような感覚になる) もちろん危険も伴う。 判断力が鈍るし、計算も出来なくなる。 発掘中に取ったノートを水面に出てから見たとき、何を書いたか本人でも読めなかったという話はよく聞く。 水中であるがためだけではなく、沈没船の実測には特有の難点がある。 それは、地上での考古学の実測ではあまり重要視されない点であるが。3次元で点を実測する必要があることである。 これについてはすこし詳しく話そう。

 つい先日、私はとある考古学者と実測の方法について話していたときふとしたことに気がついた。 私がダイレクト・サーヴェイ法(DSM)の利点について説明をすると”そんな方法は面倒だし、普通にグリッドを使い実測したほうが確実で早い“との指摘を受けた。 たしかにその通りである。 地上の発掘の場合、どちらかといえば平面図なのである。 


DSMは点と点の距離関係から遺跡を3次元で復元する。


DSMで得られたポイントをもとに大砲の位置をCGで再現できる。

3次元で遺跡を実測できることについてはあまり関心がない、というよりは平面的実測図に慣れているので他の方法の利点がつかみにくいのである。 実測と言えばX軸とY軸があり、それにエレベーションを足すのが普通である。 この方法は正確に記録が出来、そして地上の発掘では確立された実測方法である。 地上では3次元で実測する必要はあまり無く、遺跡は2次元的、平面的に構成されている。 沈没船は3次元的遺構、構造物である。 カーブがあり、傾きがあり、重なり合っている。 また船が傾いていると、その下にあるものも実測をしなくてはならない。 船の外板を取り除く前に船の内面を実測する必要もあるわけで、2次元的な実測方法は使えない場合が多い。 平面での遺物の分布を記録すのではなく、壊れかけた構造物、遺物を含めた実測図が必要なのである。 もちろんグリッドなど置ける場所は無い。 沈没船の発掘を実際問題として考え、捉えたこと無い場合、3次元実測の難しさはあまり実感として沸かないようである。 例えば地震で崩れかけた家を正確に記録したいとしよう。 入り組んだ構造になっているためグリッドはおけない、また、平面では描ききれない部分もある そして、壁や天井などは邪魔だからと言って動かすことも出来ないのである。 


水中で基準点(Datum)を作ることは大切 

   ただし、水中遺跡だからすべて3次元で捉えるべきかというとそうではない。 これは、私がしばらくきずかなかったので反省しているのだが、たとえば鷹島海底遺跡のように遺物が平たく分布している場合、3次元でその分布を抑える必要は無く、写真実測やDSMは逆に使いにくく、また使うべきではない。 さすがのMr.Oさんはこの点を認識していた。 普通の地上の発掘と同じX-Y軸での実測が確実であり、また一番楽であろう。 ようは遺跡の性質を的確に見定め、どの方法が一番確実で、また使いやすく活用できるかを検討する必要がある。 一つの実測、発掘をおぼえたからといって、それをどこでも使うのではなく、実測方法の長所、短所を的確につかみ、そして新しい方法論を常に模索していく必要がある。 しかし、どのような方法を取るにせよ幾つか考えなくてはならないガイドラインがある。 それは下記に示すとうりであるが、この他にも遺跡の性格によってはいろいろと考えられよう。

  水中での発掘には次のことが要求される。

1.簡単・確実であること

2.短期間で小人数で出来ること

3.間違いの確認・修正がその場で出来る

4.水中のコンディションに対応できるか? 

5.3次元でポイントが取れること 

6.安く済む 


テープメジャーも水中では良く使います。 絡まると大変!

1.簡単・確実であること、これは水中考古学の実測ではまず第一条件である。 地上の発掘よりもお金が掛かるわりに作業時間が短い。 そして、冒頭で述べたように過酷な条件のもとで面倒で入り組んだことをする余地はない。 水中考古学者はまず、考古学者が潜って行う考古学である。 学者が水中での発掘の必要性を感じ潜っているのであって、ダイバーが考古学をしたいから発掘をしているのではない。 スキューバの経験をつんでいないもの、また実際には潜るのが苦手、嫌いな人もよくいる。 私の尊敬する水中考古学者の中にこのような人がいるわけで、作業以外でダイビングをしたことのない人が数多くいる。 そのため、つらい作業となることが多い。 そして、時間も限られているので、確実に仕事をこなしていかなければ成らない。 失敗すると1日の作業が無駄になることもある。 また、面倒なこと、覚えるのに時間が掛かることは避けたい。 限られた時間を有効に利用したい。

2.短期間でできることは1とほぼ同じであるが、あらためて強調しておきたい。 1回の潜水は水深にもよるが20分から1時間ほどが普通である。 そして、1日2回。 一度にみんなが潜るのではなく、チームにわかれて作業する。 一度に大勢入ると水が濁り、また衝突事故も起こしかねない。 2-3人ですばやく出来る方法が望ましい。 実測の準備や後片付けも簡単ですばやくできることが条件。 フォトモデラーなどを使うと幾つか違う角度から写真を撮るだけで実測ができるなど最近はどんどん簡単な実測方法が使われている。

3.人間誰でも間違いをし、失敗もある。 失敗を元に学び成功にむすび付けることが大切である。 失敗を失敗と認め、なにが間違っていたか、そして今後どうしたら良いかを真剣に考えるべきである。発掘で何か間違いをしたらみなで何がいけなかったか、次からどうしたらよいかを討論する、それが水中考古学の発達に繋がる。 それはさておき、間違いを修正できるか出来ないかは非常に大きい。 すぐその場で間違いが発覚すれば潜りなおしが出来る。 しかし、写真実測などプロセスを踏む場合、失敗という結果がでるまで時間がかかってしまう場合、すでに遺物を引き上げてしまってからでは取り消しが着かないときもある。 できればその日うちに間違いやエラーがでれば良い。

4.水中でのコンディションは遺跡の立地条件によって様々である。 暗闇に対応、または潮の流れ、時には水温、塩害も考えなくてはならない。 もちろん防水は確実に必要となる。 貴重な機材などが水圧で割れたりするのを見るのはつらいことであろう。 あと、ボートで沖に出て実測するときなどジェネレーターが必要な機材を使った実測方法だとなかなか難しいと思う。 少し話がそれるが、音波を使って実測をするシステムを開発をしていた研究チームがプールや近くの浅瀬で実験を行ったところ見事に成功した。 さて、実際に発掘に使おうとカリブ海に赴き実測を開始したところ30分でコンピュータがいっぱいになるほどのデータを読み込まれていた。 何か機械のトラブルがあると思われたため実験は失敗に終わり急遽別の方法で実測が行われた。 後でわかったことなのだが、そこの海域にいるえびが“シーズン中”のため機械と同じ電波を発していた。 そのためすべてのえびの位置とその動きは正確に記録できたものの、考古学とは全く関係のないデータを収集するにいたった。 このように珍しい例もあるが実際に水中で何が起こるかわからない。 いろいろなコンディションに対応できる実測方法が望ましい。

5.これは上記のとうりである。 あまり平面的な遺跡ばかりを掘っているとこの重要性が思いつかない場合が多い。 グリッドはもう古い。 これからはボックスとでも呼ぼうか? X.Y.Z.とやっぱり必要だ。

6.お金があれば水中で発掘することはない。 周りを囲みポンプで水を吸い上げる、そして地上のように発掘をする。 ただし、乾燥すると遺物が崩れるので囲んだ上に天井をつけ15分おきにシャワーが出る装置を付ければ完璧。 さて、現実問題としてこのような大規模な発掘は行えるのであろうか? 幾つか例があるが、5本の指に入るほどしかない。 水中でお金をかければいくらでも正確に実測できる。 ハイテクを駆使し、NASAからも研究者を呼び、軍事用のGPSなどでも使いどんどん実測をしていく。 さて、そんなお金は誰が払ってくれるの? しかし、技術の発達はテクノロジーを安く提供できるという利点を持つ。 さきほど話に登場した音波を使うシステムなどまだ高価であるが、今後期待の持てる方法である。 さて、アジアの中でも日本のようにいまだに水中考古学の認知の遅れている国ではいかに安く実測を行うかが現実問題である。


いろいろなアングルから写真を撮り、フォトモデラー形、位置などを正確に再現、記録できる。


その情報を元に3ds-Maxなどのプログラムにエクスポート。遺跡のそのままの状況をアニメーションで再現することも可能。

    さて、おおまかに水中での実測方法についての概要、考えるべきことを語ってみた。 地上の発掘でも同じように遺跡の種類、特徴、また何を目的とした発掘なのかによって実測方法が違ってくる。 様々な条件の下どの方法が一番適応しているかを考えて、実測のプランを立てる。 一つの方法に拘らず、応用し、頭を柔軟にしてアイディア勝負のところもある。 常に新しい実測方法を模索しまた他の考古学者とも連絡を取り合い、新しい技術をどんどん取り入れるべきである。 

     これから幾つか実測方法を紹介していくがどれも長所・短所がある。 例えばダイレクト・サーェィ法(DSM)は様々な状況で使えるが、面倒であり、特に平面的な地形、他の簡単な実測法が使える場合などがあれば特に使う必要はない。 写真実測、フォトモデラーなどデジタル・カメラを利用したものは簡単だが海中の透視度が悪いと全く使えない。 そのほか船の角度を測るゴニオメーターなどは暗闇ではその威力を発揮するがそれ以外では使いにくかったりする。 音波などを使ったものは専門家を必要とし、また高価であるなど。 長所・短所はいろいろ。 まずこれらの方法の原理を学び、使い方、応用を利かせるのはそれからである。 

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