Q.水中での発掘には莫大な費用が必要と聞きますが...

確かにそのように感じるのは当然です。発掘も陸上に比べれば困難ですし、保存処理にも費用がかかります。

しかし、海洋考古学のマネージメント、水中遺跡の性格を理解すれば、必ずしもあたっているわけではありません。遺跡の性格上簡単に水中と陸上を比較することはできません。

何故なら...

1・水中遺跡のマネージメント
日本では海洋考古学の認知度が低いので、外国で行われている大きなプロジェクトしか見えてきません。これらは、スウェーデンのヴァーサ号、イギリスのメリーローズ号、トルコのウルブルン沈没船、韓国の新安沈没船、中国の南海1号、東南アジアで行われているサルベージ、そしてタイタニック号の調査などでしょう。

しかし、実際にはこのような調査は氷山の一角でしかなく、海洋考古学は地道な小さな調査の積み重ねがあって初めて成果を見ることが出来ます。沈没船を丸ごと引き上げる計画はお金と時間を要しますが、あまり勧められませんし、水中遺跡のマネージメントがしっかりしている国ではほとんどこれから行われることはないでしょう。水中遺跡は開発で破壊されることが少なく、水中にあれば安定した状態にあるため研究以外で発掘する必要がありません。つまり、ピンポイントで的を絞って調査を進めることが可能です。

大学や研究所がリサーチクエスチョンを良く吟味し、それを答えるために最も価値のある効果的な遺跡の一部だけを調査することが可能です。そのために、予算に応じて事前に計画を立て、余分な予算をかけずに調査することが出来るのです。

諸外国でこのような調査体制が出来るまでには、遺跡の位置を知る必要があり、どのような遺跡がどこにどのような状態にあるかを把握する必要がありました。このために事前調査を積極的に行っていき、水中遺跡のデータベースを作っていきます。オーストラリアやイギリスなどは国が中心となる遺跡のデータベースを作成しています。これにより、予算があるときにだけ必要な遺跡の一部を調査することが可能となりました。

2.水中遺跡の性格
やはり保存状態(特に有機物)が良いことと、開発から免れる可能性が高いことが挙げられます。もちろん例外もあります。そのほかに、水中遺跡は”その一瞬”を閉じ込めている遺跡が多いことです。沈没船はその時、その場所にあったもの以外は含まれていないので、タイムカプセルのようなものです。その社会が何を必要としていたかを見ることができます。また、沈没年が特定できればそこにあるものすべてがそのときに存在していたことになるため、編年などをピンポイントに抑えることが出来ます。地中海での沈没船のアンフォラの調査が編年に与えた影響を無視する学者は誰もいないでしょう。

また、海を通した交易を考えた場合、沈没船や港ほど価値のある遺跡はないと私は考えます。貿易を考古学で学ぶ場合、どこからどのようなものが運ばれ、どのように分布したかを考えます。陸上の遺跡の場合、貿易の終着点の一つ一つを発掘しているに過ぎません。何百もの遺跡を発掘し、その点を比べ、繋げて、大きな貿易のメカニズムを調べます。沈没船はひとつの発掘でどのようなものがどこから集められ、誰が、どれだけの量を運んでいたかを知ることが出来ます。つまり、ひとつの発掘が何百もの発掘の成果を集約することになるのです。私は良く貿易を「木」に例えます。各地から集められた品物(栄養)が枝を伝わり幹を通して全体に伝わっていきます。陸上の遺跡は木の葉の一部を発掘しているのですが、沈没船は木の幹を発掘していることになります。

これを考えると、水中遺跡と陸上の遺跡では遺跡の見方の価値が違っています。簡単に陸上・水中を比べることは出来ません。結論としては、費用はかかりますが、それだけ見返りも多く、マネージメントをしっかりと行えば無駄なく必要な調査だけを行えることになります。陸上の緊急発掘に使われている費用を考えると果たして陸上と水中どちらに費用を多く使っているか疑問を感じます。

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