Maritime Cultural Landscape の提唱

考古学において過去の文化的景観(cultural landscape)の復元は大変重要視されています。考古学における文化的景観とは、遺跡や遺物を単純に「物」として観察するのではなく、その背後に横たわる環境や景観を含めて分析しようとしたところにはじまると考えられます。これはイギリスにおいては20世紀はじめにAnthropo-geograohersと呼ばれる研究者によって、自然環境と遺跡立地の相関関係を明らかにするために地理学的手法を用いたことが基礎となっています。近年では国連ユネスコが自然景観と同様に文化的景観についても、その重要性を明らかにしたうえで、その保護を義務付けています。ユネスコでは文化的景観を構成する3要素を定義しています:1) Clearly defined landscapes; 2) Originally evolved landscapes 3) associative cultural landscapes。しかしながら、今日landscape archaeologyの分野を専門とする研究者は、文化的景観の定義とは別に、文化的景観が特にどのように人間活動に関わったのかという研究を重要視しているようです。

1994年、学術誌International Journal of Nautical Archaeologyに「The maritime cultural landscape」のタイトルで一つの論文が発表されました。 論文の著者であるデンマークの考古学者Westerdahlは、沈没船に限らず海辺に遺存する文化財、例えば漁場、港、造船所、灯台などを、一つの文化景観として取り扱うことを提唱しています。この文化景観には概念上の文化痕跡である古代船舶の航行ルート、港や船舶往来に障害となる自然地形に関する名称の意味となども研究の対象として含まれているとされます。厳密にはmaritime cultural landscapeの研究概念の全てが、水中考古学研究に適用されるとは限らないとされています。欧米では、maritime cultural landscape海辺文化景観は地域の文化財保護担当者によって、徐々に研究が進められています。沈没船が調査対象となる際に歴史的背景や地域研究を基本的なアプローチとすることは当然ですが、個々の海辺文化財とそれらから構成される文化景観が歴史的にどのような意味を持つのかを明らかにするとことは大切であると考えられます。

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