保存処理のお仕事

よく“留学するにはお金が掛かるから...”と聞きますが、大学院レベルでは奨学金やアシスタントシップ、そのほかの仕事などが提供されるため、比較的安くて済む場合もあります。学校側としてもやる気のある生徒を探してるわけですので、多少資金面でバックアップが可能です。そして、大学の仕事はもちろん水中・海洋考古学関連ですから、ピザの配達よりも給料が少なくても実戦や経験を積むためにも大切です。私の場合、テキサスA&M付属の保存処理ラボ(Conservation and Research Laboratory 以下CRL)で働いています。週20時間(ハーフタイム)働くこと、またクラスを9単位以上(フルタイムの学生扱い) 取ることが決まっています。給料はそこそこ出ますが、それに付け加えて授業料が全額免除されます。(人や場合によって条件はいろいろ違います)。

CRlの中の様子です

ここではCRLでの仕事の様子を説明しましょう。

CRLではTAMUのプロジェクトの保存処理の他に別の大学や研究機関のプロジェクトの下請け、または技術提供なども行います。 TAMUのプロジェクトの場合は研究などをメインと行いますが、他の機関からの遺物の保存処理の委託を受けた場合は研究などはせず、保存処理だけを行います。しかし、場合によってはCRLで働いている学生が興味があれば論文の題材につかったりといろいろなケースがあります。CRLでは金属(無機物)から有機物まで大きな船の部品、船そのもの、そして小さなものでは種など幅広く保存処理を行っています。

ER用の容器は大きいものが多いので(大砲やアンカーなどがあるため)外においてあります。 電流が常に流れています。

金属は主にElectrolytic Reduction(ER)で処理を行います。この処理は遺物をアルカリ性溶液に浸し、微弱電流をながします。この装置ではサビを逆に酸化(還元)することが出来ます。このときに塩化ナトリウムも遺物から除去でき、サビの進行を抑えます。遺物の色が多少変わってしまうことがあるのでこの保存処理方法に問題を感じる人もいるのはたしかです。しかし、処理無しではサビが進行するだけですし、表面のサビをいくら除去しても鉄の内部の塩化ナトリウムは取り除くことが出来ません。この場合、表面処理だけでは常に保存処理を繰り返すだけの作業となり、根本的な“遺物を後世まで残す”処理にはなっていません。多少の変色があろうともERでは内部の塩化ナトリウムを除去することが出来るため、現在もっとも有効な水中から引き上げられた金属の保存処理方法として使われています。また、ERでは装置などにほとんどお金を掛ける必要が無いことも重要です。ドラム缶のような容器と電流をコントロールするシステムがあれば何処でも誰でも簡単に保存処理が行えます。

遺物の表面の余分なシリコン・オイルの除去作業の準備中。薬品を使うため手が荒れます。

有機物の処理ですが、ほとんどの場合シリコン・オイルを使って行います。(シリコン・オイルの保存処理方法はTAMUで開発され、特許を保持しています) この処理ではまず遺物をアセトンなどで脱水し、シリコンに浸します。シリコンが遺物の内部まで浸透させるためにバキュームにかける場合もあります。遺物にしっかりとシリコンが浸透した後、遺物の表面のシリコンを除去します。最後にシリコンを触媒させれば保存処理の作業が完了です。

土器のように見えますが、実は鉄が水中で錆びて周りにあったものと反応してできたモノです。(磁石に反応します、サビの副産物とでもいいましょうか?) この周りにあった遺物、そしてもちろん鉄は発掘する前に無くなってしまいましたが、この副産物だけがバラバラとなって残ってました。つまり、このバラバラがつながれば多少回りにあったもとの遺物の形が分かる... このような作業なども行っています。

主な保存処理のプロセスはだいたいこのような流れです。その他に遺物の種類や委託元の依頼などにより様々な保存処理を行います。もっと詳しく保存処理について学びたいのであればこれらのサイトをご覧下さい。

CRL

奈良文化財研究所

東京文化財研究所

ARCHAEOLOGICAL PRESERVATION
RESEARCH LABORATORY
(TAMU付属の保存処理研究機関です。CRLと協力関係にありますが、保存処理の委託を行うのがCRL,保存処理の研究がAPRLです。)

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