中国の水中考古学

中国の水中考古学について、日本語で読める記事があったので。

中国は国家プロジェクトとして水中考古学を推し進めています。他の国に比べてもこの分野への熱の入り方はけた違いです。これ自体は素晴らしいことなのですが、この記事の抜粋でいくつか気になる点を挙げます。

「南シナ海には1000艘もの沈没船が眠っていることが確認されているが、水中で作業できる考古学関係者は100人にも満たず、作業は困難を極めている」

さて、沈没船の数ですが、とびぬけて多い数ではないということ。スウェーデンでは3000件以上の水中遺跡が保護対象の遺跡として登録されています。しかし、スウェーデンで実際に水中専門で作業している考古学者はそれほど多いわけではありません。ここではスウェーデンという国を例にとりましたが、メキシコや他の国でも状況はそれほど変わりません。何十万とある水中遺跡のマネージメントをごく少人数でおこなっています。

この記事を読んだときに私が最初に感じたのは、「水中遺跡」というものを陸上とは違う「特別なケース」としてみていることです。

日本では年間8千件以上もの陸上遺跡が発掘されていますが、まだまだ陸上の遺跡が無数にあります。遺跡のある場所は「周知の遺跡」として認知され遺跡台帳に登録されます。周辺で開発があった場合に破壊されるために、保存記録として発掘を行います。遺跡がそこにあるとわかっており、重要な遺跡であっても発掘しないケースがほとんどです。陸上の遺跡をただそこに遺跡があるからガンガン掘っていくなどは考古学者の数や資金の面から見ても相当困難です。でも、困難だからといってニュースでそれが取り扱われることはないですね…というよりも、現在の経済状況や世界の考古学行政(および学術調査)の常識から考えて、遺跡があるという理由のみで発掘することはないと考えられます。

遺跡が開発によって破壊されるときにのみそのエリアを発掘すること、これが行政考古学の前提となっています。そのためには、周知の遺跡の範囲をしっかりと把握すること、新しい遺跡の発見、開発業者などにもしっかりと遺跡を大切にすることを認識させ遺跡があった場合の対処が重要となっています。陸上の考古学ではその時の経済の状況などを考え開発とのバランスを取りながらマネージメントを行っています。日本(と世界)の陸上の考古学は調査だけでなく、遺跡の保存・活用と開発のバランスを図るマネージメントが重要です。そして、水中考古学が発達している国では水中であっても陸上と同様なマネージメントを行っています。陸と水中の遺跡の区別がないことが重要であり、水中考古学という言葉は使われません

海の上で開発が行われるケースは陸に比べて多くはなく、そして、そのほとんどが、自治体主体で行われる開発や、大企業でも国・県などから補助金などをもらって行うことが多いようです。開発の範囲に水中遺跡があっても、工事の範囲を動かすことが可能な場合が多いようです~陸に比べて工事範囲に関しては計画の段階から遺跡の範囲を考えてプランを立てれば、融通が利く場合が多いようです(海は広いですから)。開発のエリアを変更することができずに、やむを得ず水中で発掘を行わざるを得ない場合、特に発掘を行った経験のある考古学者が遺跡発掘の監督を行います。実際の作業は潜水ができる作業員が行い、記録などを取る場合に考古学者が行うことが多いようです。日本でも陸上の発掘で実際に掘っている作業員さんは考古学の訓練はとくに受けてないですね?水中でも同様に対応できるというのが、大体の国において行われています。

しかし、中国の記事を読むと、「水中遺跡があるから掘らないといけない」という印象を受けます。開発があった時のみではないようです…また、発掘を行うのも専門の訓練を受けた人のみなのでしょうか?これでは、どう考えても困難になるのは当たり前ですね?ユネスコが進めている水中文化遺産の保護ですが、こちらも開発とのバランス、遺跡の現状保持を第一のオプションとして捉えています。中国はちょっと異質な感じがします。

ユネスコの水中文化遺産を承認した国は2014年中には(私の予想では)50か国を超えると思われます。それらの国々は基本的には開発とのバランスを考え、陸の遺跡と水中の遺跡との対応の違いを無くすことを目的として取り組んでいます。現在、日本では水中考古学の体制が整っていませんが、どのように国としての体制を作るか考えたとき、参考になるのは、中国ではないような気がします。もちろん、資金や人員が確保でき、そして保存処理もきちんと対応できれば中国のような対応もできますが、日本の現状を考えるとそれは無理な気がします。しかし、現状維持を前提とした場合は充分対応できるのではないでしょうか?その方法などについては、また後ほど…

ユネスコの水中文化遺産について 

 

引用元:http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=81195#

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

トップに戻る