トレジャーハンターについて

水中遺跡と聞くと、沈没船 財宝というイメージが湧きますが…

 

実は、日本の水中遺跡で一番多いのは、縄文時代の遺物が散布しているような場所や水没遺跡(100個所以上調査されています)。それは別の機会で書くとして、沈没船や財宝って本当にあるの? もちろん、あります。

見たことありますか? 引き揚げたものは、もちろん見たことありますし、保存処理をしたこともあります。

ですが、例えば、金などは考古学的にはあまり価値の無い物。長年持っていたり、溶かしたりするので、時代の特定や文化の特定ができない。ちょっと残念な遺物です…。しかし、金銭的な価値はあるため、それを探し当てるトレジャーハンターたちがいます。

一攫千金を狙うハンター。財宝を引き揚げ…。私の偏見かもしれませんが、私がお会いしたことがあるトレジャー・ハンターさんたちは、みなさん自慢話がすきな人たちでした。

 

彼らの活動は、かなり誇張されていて、テレビなどで話しを盛り上げるためだけに使われてしまっています。そして、トレジャー・ハンターの多くは、実際に遺物を引き揚げて大金を手に入れているわけではなく、文化遺産を巧みに利用して様々な方法でお金を儲けています。

文化遺産の持つ歴史的価値をないがしろにしています。もちろん、その場所で亡くなった方もいる場合には、その遺族に対しても冒涜を働いているわけですね。

 

今日は、そんなトレジャーハンターとか水中文化遺産を利用して儲けようとした人たちのお話し(失敗談?)ダイジェスト。

今回、写真などは少なめにしています…というのも、トレジャーハンター系の人たちも私のブログを見ているようで、ちょとでも著作権の問題がありそうな記事や事実に反することを書くと、裁判に持っていこうとします。実際、「24時間以内にブログの記事を消去しないと訴える。そもそもすでに著作権に違反しているから、今からでも訴えるぞ」という話が過去に数回ありました。なので、控えめに…

①オデッセイ・マリーン社

2007年、アメリカのオデッセイ・マリーン社が財宝を積んだ船の発見を報告。沈船コードネーム・ブラックスワン号です。その後、直ぐにスペイン政府が動き出します。

スペインは、その船が1804年にジブラルタル沖でイギリスの攻撃により沈没した、メルセデス号(Nuestra Señora de las Mercedes)であると主張。その後、裁判になりますが、2009年にアメリカ最高裁が、遺物はすべてスペインに所有権があると判決。もちろん、引き揚げた財宝(17トンの金・銀を含む600億円相当)は、スペインへ返還するよう指示が出ます。

 

それでもまだ終わりません。スペインは裁判費用などを含む3.5億円を支払うよう要求。ここは、裁判所もちょっとかわいそうに思ったのか、結局、オデッセイ・マリーン社はスペイン政府に対し、1億円の罰金を払うことになりました。

 

引き揚げにかかった費用、遺物を保管や保存処理費用などなどすべて水の泡…600億円稼げれば、元は取れると判断したのでしょうが、大失敗。

https://www.tampabay.com/news/business/odyssey-marine-ordered-to-pay-spain-1-million-in-black-swan-case/2144658/

②トミーさん

なかなかの曲者。1857年に沈没した船で、ゴールドラッシュの金を運んでいたSS Central America号を引き揚げる!とスポンサー集めを始めました。投資者にはビックなリターンを約束。18億円ほど集め、船を発見し、金貨500枚以上を引き揚げたそうです。

 

配当金を支払う約束だったが、支払わずにいたので、訴えられた。で、出廷せず…

そのまま逃走。数年間逃げ続けていたようですが、結局逮捕されます。財宝を隠し持っているらしいが、その場所を明かさない。検察には「覚えていない」と証言しているようです。留置されている間、1日あたり1000ドルの罰金が科せられているそうです。それでも、なぜか隠し場所を明らかに(まだ)していないようです。記憶喪失との疑いもあるようですが、それも演出しているとか?

 

https://www.abc.net.au/news/2020-12-15/tommy-thompson-marks-five-years-in-jail-over-missing-gold-coins/12986966

③バリー・クリフォードさん

マダガスカルでキャプテンキッドの船を発見したと発表→UNESCOが調査し、ウソと判明。また、ハイチでコロンブスの船を発見したと報道→こちらも、全くのウソと判明。どうやら、捏造癖があるようです。もう誰も信頼してくれないと嘆いているとか?(当たり前ですね)。

ただし、バリーさん、じつは、伝説の海賊サミュエル・ベラミー(通称ブラック・サム)の船ヴィダー号を発見している。これは本当。それなりに「活躍」したハンターですが、どうしちゃったんでしょうか?

 

某漫画にもベラミーが出てくるようですね。漫画に登場する人物の元ネタとなった人の船などいくつか発見・調査されています。まとめてブログ記事にしても面白いかも…。

 

https://www.afpbb.com/articles/-/3047745

④マニラ・ガレオン San Jose号

1708年、スペインのガレオン船San Jose 号がイギリスの攻撃を受け、現在のコロンビア沖で沈没します。600人が亡くなり、現在の額で2兆円(20ビリオンドル~計算合ってますかね…桁が多くてもうわからない)を超える金・銀・財宝が消えました。

 

2015年、ウッズホール研究所との共同研究によりコロンビア政府が沈没船を発見したと報道。しかし、アメリカのサルベージ・トレジャーハンティング会社が、「我々がすでに発見したポイントであり、コロンビア政府との契約して探していたため、会社側に所有権がある!」と主張。さらに、スペイン政府も所有権を示す。また、財宝の多くが採掘されたペルーなども所有権を主張…。

 

コロンビア政府は、この会社に対して、契約したことを認めつつも、発見者であることや財宝の所有権は否定しました。ペルーは?そもそも独立承認の交渉において、それまでの利権などをチャラにすることを盛り込んでいたので、所有権争いから足早に撤退。現在、コロンビア政府はスペイン政府と共同で国の重要な文化財として沈没船を一部引き揚げて展示することを検討。両国の重要な遺産として現地での保存をするとしています。

 

http://www.bbc.com/travel/story/20190908-a-shipwreck-worth-billions-off-the-coast-of-cartagena

⑤お隣、韓国から。

日露戦争の際に沈没したドミトリ・ドンスコイ号(別名ゴミ取り権助・・・日本海軍では敵艦の名前を覚えるためにあだ名で呼んでいたそうです)。日本海海戦のいわゆるバルチック艦隊ですね。

韓国沖で発見されましたが、この船に金塊が積まれているとして、引き揚げを計画。何やらオンラインコインに? 金塊を担保にして仮想通過をネットで販売

直ぐにウソだとばれたようです。

 

https://www.dailymail.co.uk/news/article-5995753/South-Korean-firm-apologises-admitting-NO-treasure-Russian-shipwreck.html

オマケ

ベトナムでは、とある会社が遺物を引き揚げたが、費用が掛かりすぎ。オークションに出品するも、高値が付かず大失敗。

 

インドネシアでは、ジャワ沖海戦で沈没した軍船などを中国の業者が勝手に引き揚げ・スクラップとして売却か?

日本にもあります。

リッチランド事件

まあ、沈没船ひきあげますよ、お金下さい。儲かりますよ!ってやつ。

https://beyond.cocolog-nifty.com/akutoku/2007/01/post_d9fd.html

https://ichiranya.com/politics_economy/006-fraud_case.php

他にも同様の詐欺事件があり、私も誘われましたが、断ってます。東南アジアで沈船引き揚げるから協力してくれ、千葉御宿沖のサンフランシスコ号(1609年沈没)にお金を出すから一緒にやろう、などなど。まあ、学者が関わっていると言うだけで正当な調査のように見えるため、でしょう。

 

あと、某時計メーカーがトレジャーハンターと組んで、沈没船から引き揚げたスペインのコイン入りダイブウォッチを販売してました。私は、そのメーカーの時計だけは絶対買いません。たしか、会社に抗議のメールを送ったように記憶していますが、返事は来なかったような…。

 

ユネスコ水中文化遺産保護条約ー水中の遺跡を守る国際的な取り決めです

 

さてさて、沈船引き揚げを行なっている人たちは、だいたいこのように言います。

「開発や災害、そして漁師も底引き網・トロール船で水中遺跡をたくさん破壊されている。我々は、破壊される前に記録を残しているので、歴史理解に貢献しているのだ!」

 

たしかに、これまで開発や漁業活動により数万件の遺跡が破壊されてきたのは確かでしょう。それを考えると、トレジャーハンターが扱う遺跡は数隻しかありません。破壊された遺跡の総数からすると、ちっぽけな数です。

 

しかし、その論理は、水中遺跡の保護が出来ていない国では意味をなしても、きちんと保護が出来ている国には、その論理は通用しません。沈没船詐欺の話しなど昔は良く聞きましたが、最近はほとんど聞きません。昔は良くトレジャーハンターから毎年2~3件は「仕事を一緒にしよう!」と話がきていましたが、ここ10年ほどありません。

現在では、多くの国で水中遺跡を保護する法律が確立しています。ユネスコ文化遺産保護条約締約国も、そろそろ70か国。批准していない国も、事実上ユネスコの内容やイコモス憲章などをプロトコルとして採用しています。

トレジャーハンターは行き場を失っています。日本は世界のなかでも稀な水中文化遺産の保護に政府がほとんど無関心の国なので、まだまだ入り込みやすいのです。ですが、どうやら詐欺事件だけで終わっており、本格的な引き揚げなどは、ないようです。自国の沈没船を荒らすことに対して、国民は、もともとあまりいい気分はしない、というお国柄なのかもしれません。財宝を積んだ船の記録も多いわけではないですね。

アフリカや南米などは、「ヨーロッパの船が来ていた」ので、欧米のハンターが来て欧米の沈没船を荒らしても、そこまで親近感が湧かなかった、とも言われています。ただし、現在は全く状況が異なります。中南米の多くの国、そして、アフリカ(トーゴ、ナミビア、南アフリカ、マダガスカル、ケニアなどなど)では、他国の船であってもしっかりと水中にある文化遺産を守っていく考えが根付いています。

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