「東アジアの水中考古学」に参加して...

この記事は2004年10月18日に以前のサイトに掲載されたものです。 
10月17日に福岡国際ホールで行われたシンポジウムに行ってきました。その時の様子と私の意見を紹介します。 このようなアジアの水中考古学会議は初めての試みだそうです。 中国、台湾、韓国からVIPの先生をお呼びして行われました。 3年半前にアジアの水中考古学をやってみようと心に決めたときは西洋と比べ情報量のなさ、専門家がほとんどいなかったことなどに驚きを感じましたがこうしてシンポジウムを行える体制が出来上がっているのでこれからどんどん発達していく学問となるでしょう。  

また、水中考古学に理解を示している先生方が以外にも多かったことにも驚きでした。 日本には水中考古学を専門として生活を立てている人はいないと言えまずが、実は多くの人が何らかの形で水中考古学に関わっていることを再確認しました。中国、台湾、韓国や日本の先生の発表をそれぞれ解説するよりは全体の雰囲気・感想を紹介します。やはり、参加された皆さんは水中考古学に熱意を持った方々ということが伝わりました。 シンポジウムは大成功に終わりました。

九州大学名誉教授の西谷先生の挨拶からはじまり

   中国は現在一番研究熱心であるように感じられました。 国家のサポートも一番多いようで南海1号などの発掘により、考古学ダイバーの訓練など設備が整っています。 また、新しく建設されたセンターはハイテク技術を駆使しこれから急発展しそうな勢いがありました。 台湾は少ない予算ながらも徐々に研究体制を固めており、今後の発達に期待がもてそうです。 台湾は昔から海上交通の盛んな場所で小さな島々も多く幾つもの沈没船の発見がこれから相次ぐことだとおもいます。 韓国は新安沈船など、アジアの中で一番の実績を持つ国で、発掘技術だけでなく保存処理施設も整備され立派な博物館もあります。 今のところ韓国がアジアの水中考古の模範としてあげられるのではないでしょうか。 しかし、実績はあるものの、沈船それぞれの歴史的・考古学的価値、人類史上の位置づけをしっかりと確認していくべきでしょう。 日本は?というと東アジア水中考古学未発展国の座は確定し、また民間レベルでの理解力・サポートのない国であることは参加したすべての人の意見でありました。 (北朝鮮がまだ水中考古学を始めていないようなので下には下がいます!日本がんばれ!!) しかし、長くから水中考古学を行っているのは日本であり、もし国家レベルでの協力が得られれば他の国々よりも急速に発展するはずである。

     さて、いまさらではあるが、このようにどこの国が進んでいるなどという話はあまり意味がないことだと思う。 水中遺跡、特に沈船の研究は国際間のつながりが重要視される。 遺跡の性格上研究者はインターナショナルでなくてはならない。 例えば次の沈船が発掘された場合はどうなるであろう。 インドネシアに住む中国南部からの移民が中国式のジャンクを作るが、木材はほとんどすべてタイとインドからの輸入木であった。 この船を台湾の商人に売却。 その商人がベトナムとマレーシアで品物を積み、日本へ向かう途中韓国湾岸で沈没した。 果たしてこの場合どこの国の船と言えるのだろうか? 実際に新安沈船は中国南部で作られ博多へ向かう途中韓国で沈没した船である。 この船は韓国人によって発掘されたが、日本流通史にとって重要であるし、また中国の船を知る上でも重要である。 実際に発掘した韓国には歴史的価値はそこで沈没したことであろうか? さらには鷹島海底遺跡は蒙古襲来遺物が引き上げられているが、これもまた日本の遺物と言うよりは中国、韓国、およびモンゴルの遺跡である。 沈船の発掘には多国籍の研究者の共同作業がもっとも望ましく、お互いの情報を常に交換し、相互の発展に協力することが最重要である。 今回のシンポジウムでは参加したすべての先生方の間に連帯感、同じ仲間である意識が再確認された良い機会であったと思う。

韓国の先生も熱弁!

     報告・討論の中で特に中心的なテーマであったのが発掘、引き上げ技術、またサーヴェイの方法論であった。 私としてはもっと保存技術について、またそれぞれの遺跡、遺物の歴史的重要性、そしてそれをどのようにして一般民間レベルに情報を提供していくかをもっと討論してほしかった。 水中考古学は発掘・保存処理・出版を一つの大きな流れとして確立させたいのが私の考えである。 シンポジウムを見学に来た人には水中考古学の発掘にはやたらとお金が掛かるものだと印象を与えたかもしれない。 しかし、それは氷山の一角であり、保存処理・遺物整理・展示・出版にはもっと莫大な費用が掛かるのである。 そして保存処理と遺物整理が一番重要であると私は考えるのであるが討論はもっぱら発掘についてであった。 それはやはりまだ実績がないため仕方のないことなのかもしれない。 西洋の沈船研究では発掘方法などはあまり議題にあがらず歴史的重要性、社会的側面が主なテーマである。 しかし、調査件数が西洋とアジアでは2-3桁違うので今アジアの水中考古学にそれだけのテーマを求めるの無理な話であると思われる。 60-70年代前半には地中海でも同じように発掘技術などが研究の議題であった。 だからこれから実績があがってきたときにもっとそれらのことが討論できれば良いと思う。 今はまだアジアでは未発達の学問がこれからどんどん伸びていってほしい。

鷹島で遺物などを見学

     シンポジウムで多少議題にあがったがその後先生方との話し合い(2次会など)で印象に残ったことは水中考古学は国際的であると同時に多岐に及ぶ分野からの協力を得なけらば決して成功はしない学問であると改めて認識した。 他の先生や一般の人々も似たような考え方をもっている人が増えてきていることは良いことだと思う。 総合・統合的研究の必要性については私は前々から伝えている(水中考古学概説)のでここでの説明は控えめにする。 沈没船調査はサーヴェイには地質学的・海洋学的知識、そして機械が使えなくてはならないこと、そして遺物の保存技術はもちろん遺物の種類も多いため科学的分析が必要不可欠である。 そして、その分析にも考古学者が人任せではなく自ら進んで学び、そして他の学問の専門家を水中考古学の一分野(スペシャリスト)として招きいれる必要がある。 水中考古学とは一つの遺跡の正確を完全に把握し、歴史的価値を探るために様々な分野と提携し研究する学問であると私は考える。 遺跡の絶対数が地上に比べ少ないが地上では残ることのない遺物が発見される可能性もあるためなおさら研究は幅広く行う必要がある。 それには地方自治体の発掘ではなく国単位で水中遺産の保護に取り組んでいくべきであるのは参加した人の大多数の意見であると思う。 

バスに乗ってLet’s Go!

     大成功に終わったシンポジウムであったが問題点などはなかったか? ちょと細かい点ではあるが西洋の発掘事例を紹介したときなど多少事実と異なる点があったが、どちらかと言えば間違いよりは”誇張”であったように感じる。 大きな船をそのまま引き上げるか否かの問題で西洋の事例を2件ほど挙げていた。 西洋ではどれも視界も良く、海流の流れもないような所での作業であったと紹介していたが、メリーローズ号の発掘は視界が”0cm”に近い状態であったし、またヴァーサ号の引き上げも60年代であったため、超巨大事業であった。中国、韓国など視界が悪く海流も強いという条件のもとがんばって作業しているが、世界どこでも同じである。 アジアも西洋も条件は同じであり、アジアで発掘件数が少ないのは、費用の問題と一般民間での水中考古学の対する認識の浅さでだと考える。 地中海のように穏やかな海は珍しいが、西洋の他の地域で発掘された事例を混同していたようである。 これとは別にその他には一般参加者からの質問・応答がなかったのが残念ではあった。 いろいろと質問しようと期待をしていたので... いや、私のようなでしゃばりな人から質問をされると討論が長くなった可能性があるので良かったのでは? 一般の参加者の意見を取り入れることは大切であり討論は必要である。 私の意見ではこのシンポジウムの大成功の意義は大きいと思う。 もっとこのようなイベントが頻繁に行われること、そしてマスコミなどで取り上げられるべきであろう。 水中考古学を一般レベルに浸透させるために日々努力をしているのだが、他の人々にもこの学問を宣伝していただきたい。 

現場も見てきました 

     シンポジウムと平行して日本に来た先生方が鷹島遺跡を訪れました。 これもまた良い結果が得られたと思います。 日本の水中考古学はまだまだ未発達であるがこのシンポジウムを機会に大きく発展していってほしいと願います。 他にシンポジウムに参加された方はどう考えたのでしょうか? 掲示板、またはE-メールなどで話し合ってみてもおもしろいのでは? また近いうちにこのような集いが出来れば良いと思います。 このシンポジウムがアジアの水中考古学の歴史に新たな1ページを刻んだことは間違いないでしょうか? みんなの意見ですが水中考古学を民間レベル、地方自治体レベルで進めていくのには限界があり、やはり鷹島遺跡を国指定遺産とすること、そして水中考古学を国家レベルで進めていくことが今後の目標となるのではないでしょうか?  最後になりますが、本当に良い企画だったと思います。 関係者の皆様には感謝の気持ちでいっぱいです、ごくろうさまでした。 すばらしい企画をありがとうございました。 またやりましょう!

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