漁師の網の中…

読売新聞からのニュースで、漁師さんが底引き網中にほぼ完形の縄文土器を引き上げ、地元の文化財センターに寄付したとのニュースがありました。

この記事についていくつか考えるべきことがあります…

記事の中では、このほかにもよく網に遺物がひっかかるが、大体は欠片で届け出ることはないとのこと。実は、漁師さんは意外と海からモノを拾っていることが多いようです。世界の水中遺跡のその多くはこのような漁師さんや海に関連した仕事をしている人によって発見されています。鷹島海底遺跡や新安沈没船、世界最古のウル・ブルン沈没船など、逆に水中考古学者が発見した遺跡を挙げるほうが難しいです。さて、底引き網ですが実は遺跡を破壊することでも有名です。せっかく発見した遺跡も次の年には破壊されているケースも聞きます。遺跡を発見できる一方で確実に遺跡を破壊しています。

そのような中、環境への配慮も含めて底引き網を禁止する国や地域などもあるようです。しかし、一般的に多いのは水中遺跡があることが判っている地域や遺物の引き上げが報告されたエリアでの底引き網の私用を制限することなどが行われています。周知の遺跡となった場合はやはり制限が必要なのではないでしょうか?陸上の遺跡でも周知の遺跡となると掘削するのに制限がかかります。陸ではOKでも水中ではNGというのも、おかしな話なのでは?

底引き網の他にも、海岸で様々な遺物を拾うこともできます。このような場合、沖に沈没船や水没遺跡があるケースが多いようです。一昔前までは、これらの遺跡を発見するには大きな機材(と資金)が必要でした。しかし、現在ではサイドスキャンソナー(音波探査機)を個人でも買えるレベルまで値段が下がっています。音波を水中に発射し、その反射から水底面を映し出す装置です。イルカさんやコウモリさんが使ってますね。

この音波探査ですが、ゴムボートとUSBが使えるノートパソコンがあればだれでも沈没船を発見するチャンスがあります。ゴムボートがなければ、スワンボートでも可能。サイドスキャン自体はちょっと大きめの長細いスイカぐらいのサイズですから、観光地でも鞄に入れて、スワンボートを借りれば誰にも気づかれず沈没船の探査ができてしまう...スワンボートに乗ってノートパソコン見ているのも不思議な光景ですね。確認はしていませんが、アンドロイドなどスマートフォンではまだできないと思います。アプリを誰かがつくれば出来そうですね...ソナー自体も最終的にはかなり小さくなりそうです。ポケットサイズになったら、タブレットを使って沈没船探査できる日もそう遠くないかもしれません。遺物が網にひっかかるということは、水底の表面に遺跡(遺物)が露出していることになります。この場合、サイドスキャンソナーで水底面を映し出すことができるので、発見できるポテンシャルは充分あります。

遺跡発見のためには漁師さんや漁業関係者にその都度、地方の文化財担当者に連絡を入れていただく必要があると思います。まだその体制ができていない地方自治体が多いようです。発見があった個所は探査をして、周知の遺跡にすることが現在の日本の埋蔵文化財保護法に沿ったベストな方法であると考えられます。遺跡の保護のためにその周辺は底引き網を制限することなどは法律などがないためまだ施行できないでしょうが、埋蔵文化財担当者と漁業関係者の間での協議が必要かと思います。遺跡があればそれをもとに観光資源として活用することや、地域の歴史を知るためには必要なことだと考えられます。陸上で周知の遺跡があった場合、地権者は勝手に掘ることはできないのに対し、水中に周知の遺跡がある場合は保護対象とならないのは不思議です。

今の日本の体制では、遺跡を破壊する可能性のある行為を禁止するかしないかの基準を、現在の海抜という過去の人類の営みとは無関係なスタンダードで線引きをしています。確かに、保護の対象となる遺跡の基準は必要です。日本の場合、中世までは保護し、それ以降は自治体によって歴史的価値のあるものについてはその都度判断すること、となっています。埋蔵文化財保護法で標高を遺跡保護対象の判断とすることなど全く書いていないので、この海抜0mを基準としているのはおかしな話なのではと思います。どうせだったら、この基準を標高634mにしても良いのでは?この標高よりも上(もしくは下)にある遺跡は保護する(もしくはしない)と…

世界の国々で底引き網が部分的に禁止されてきましたが、もちろん最初は反対もあったようです。ただし、広い海の中の数100mで禁止されているにすぎないので、漁業関係者への負担はほとんど感じられなかったそうです。(海域に全面禁止の場合は別ですが...)また、逆に観光客が増えたりすることや、地域で遺跡を守っているということへの誇りにつながったというケースもあるようです。漁場が減るのであれば、政府は多少の補助金などを払う必要があるのかもしれません。陸上でも地権者に対して補助を行っています。

もう一つ問題になるのが、もし、外国の遺物を拾ってしまった場合です。実はこれは重大な国際問題につながる可能性もあります。沈没船とその遺物にたいして、そのもととなる国が判断できる場合、その所有権はもとの国帰属します。つまり、軍艦などは元の国のものであると。その昔、日本におとずれたスペインやオランダの船は元の国が所持している国有物扱いを受けます。これは、日本も旧日本軍のモノは日本のモノであると主張しているため、他国の要求も認めざるを得ません。スペイン・ポルトガルなどはユネスコの水中文化遺産保護法を受け入れているため、勝手に遺物を引き揚げてしまうと、その国から勧告を受ける可能性も考えられます。オランダもユネスコの保護を承認する予定でいるそうです。

現在の日本では、海上がりの遺物に対しての対処方法が確定していません。遺失物として警察に届けられても、対処方法を知らずに民法で処理をし、発見者に遺物の所有権を譲ってしまうと大きな問題となります。スペイン政府は実際にアメリカなど他国に対して裁判を起こし、引き揚げた側に対して賠償請求を行い勝訴しています。一般の漁師さんやダイバーなどはそんなことは知らないことも多いでしょうから、国際問題となってしまった場合に、引き揚げてしまった側に責任を問うことはできないでしょう。もし、国際問題となった場合、行政の体制を作ることや、一般の人にも海から引き揚げられた遺物に対する対応を周知することを怠ってきた日本政府の責任が問われるかもしれません。水中遺跡に関して周知をしなかったために、多くの人を困らせる可能性もあるので、国としての対応を急ぐ必要があるでしょう。

少し難しい話となってしまいましたが…最後にもうひとつ。海底から引き揚げられた遺物は塩分を含んでいるため、脱塩処理を徹底する必要があります。でないと、土器の中から塩が吹き出し、ボロボロに崩れてしまいます。特に縄文土器などは多孔質なので、陶磁器などと違い劣化が進行するのが早いでしょう。脱塩処理は簡単で、しばらく真水に浸しておくこと。時々水を入れ替えればOKです。一番簡単なのは、トイレのリザーバータンクに入れておくこと。常にきれいな水に入れ替わるので、半年で脱塩処理が終わります。海で拾った縄文土器がある方は、応急処置でどうぞ…また、地方の埋蔵文化財担当者に相談してください。水中遺跡に対して対応できない人が多いでしょうから、その場合はご連絡を。

 

引用元:http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20131225-OYT1T01260.htm?from=tw

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

トップに戻る