水中考古学の薦め

人間の新しい環境に乗り出していく好奇心と挑戦心が物質的にあらわれたもの、それが“ふね”です。考古学は水中であれ地上であれ基本とすることは全く同じです。過去を愛する人、遺物を将来のために守っていく心を持った人の集まりが水中考古学を発展させていくことでしょう。トレジャー・ハンティングや水中考古学まがいのものが日本では認知されてきていますが、考古学の目的は遺跡・遺物の保護です。過去を大切にすること、それが第一原則です。今こそ日本人の海への関心を高めるべきです。地上の重力に魂を束縛された人間の心を解放し、水中遺跡の関心を高めていく。それが私の使命だと考えています。

2005年4月2日 Randall Sasaki

トレジャーハンターには困ったもんだ。考古学ではないのだから…

1857年9月、アメリカ・カリフォルニア州の沖でニューヨークに向かう途中の船がハリケーンに遭遇し、沈没。乗客や乗組員含め425名の方が亡くなりました。この船、SSセントラル・アメリカ号は様々な理由で現在でもとても有名です。

ここ数日、日本の某テレビ局など数社で似たようなニュースが報じられているようですが、アメリカのトレジャーハンティング会社がこのSSセントラル・アメリカ号から金塊をサルベージしたそうで、売却すると相当な金額になるようです。

もちろん、これは考古学調査ではないので、残念ながら歴史的資料はあまり得ることができません。また、この沈没事故で亡くなった多くの方々への配慮を考えた行為であるとは思えません。悲劇の事故のはずなのですが…注目を浴びるのは積まれていた金塊で、それも売却して個人的にお金を儲けるためだけの行為。

実は、この船は20年ほど前に別のトレジャーハンターが一部引き上げを行って一躍有名になりました。本なども書いています。しかし、スポンサーに配当金を払うはずだったそのトレジャーハンターが金塊を持ち逃げ指名手配となっています。未だに見つかっていないそうです。金塊は溶かして闇ルートで売られたのか?本人はどこに?

先日からニュースとなっている韓国の沈没船。タイミング悪く水中考古学のネタを放送する予定だったポケモンはテレビ局が放送を自粛・延期(中止)しました。また、WOWOWも映画タイタニックの放送を延期。そのような中で、このようなニュースを扱ってしまって良いのか?また、一部ではありますが、この行為を考古学と勘違いしている人もいるようです。

ちなみに、来週からハワイでアジア・太平洋地域の水中文化遺産の保護を呼び掛ける学会が開催されます。UNESCOの水中文化遺産保護条約や人道的・考古学的な水中遺跡(沈没船を含めた)を知る上では良い機会ではないでしょうか?アジア・太平洋地域から多くの水中考古学のエキスパートが集まります。インドネシアやスリランカなど近年水中考古学に力を入れている国からの発表などいろいろと新しい情報が聞けることでしょう。報道機関・関係者の方にもそろそろ本当の水中考古学を知ってもらう良い機会であると思います。

沈没船を研究することについて…

先日、お隣韓国で沈没船事故があり多くの方が亡くなり、また、いまだに行方不明者も多くいます。韓国だけでなく日本を含め世界では船を運行する者、海に関連する仕事をする人にとって大きなショックとなったのではないでしょうか?悲しい事件ではありますが、このような事故が二度と起きないよう様々な安全上の対策が必要であることを痛感させられる事故です。我々水中考古学者、特に過去の沈没船を研究の対象としている人にとっても複雑な気持ちで見つめる事件となりました。すぐ近くでは数隻の過去の沈没船(高麗時代など)が発見されている海の難所でありますし、日本ともゆかりの深い新安沈没船もそれほど遠くない海域で発見されています。

過去の沈没船を研究する人にとって忘れてはならないことは過去の事故をまのあたりにしているということです。我々が研究しているのは、考古学ではありますが、歴史の1ページを生々しく映し出すこともあります。もちろん、その事故現場で命を落とした人もいます。それが数百・千年前であれ、それは変わらない事実であると自覚しています。沈没船の研究を行う前には世界各地において文化・風習は違えど、様々な儀式を行います。日本ではお供え物をしたり供養をしたりしますし、韓国でも過去の霊に対して敬意を払ってから発掘作業を行っていました。西洋でもいろいろな儀式などを行っています。

考古学者はその事故現場から発見された遺物ひとつひとつに対して過去に人が使用したものであることを理解し、十分敬意を払います。重要なのは、過去の歴史を教えてくれるだけではありません。いままでは、あまりこの点についてはこのサイト上では書いていませんでした。もっと書くべきであったと思い反省しています。また、トレジャーハンターなど引き揚げた遺物を売買して自分達だけの利益とする人がいることは考古学的観点のみでなく、人道的立場からも個人的に理解できません。海に沈んでいる過去の遺物はできる限り保護されるべきであると私は考えています。

沈没船の研究を通して一つ言えることは、人間は同じ過ちを何度も繰り返すということです。文献・考古学資料の両方からわかることですが、船の沈む原因の多くは人為的ミス、特に危険回避に十分責任を感じていなかったことが多いような気がします。ロイド社やオランダ東インド会社の資料などを見てもわかりますが、嵐などで沈没することは珍しい例です。沈没事故の90%は岸に近いエリアで起こっています~主に衝突、浅瀬に乗り上げる、積み荷のバランスが悪い、利益を求めたがゆえの積みすぎなどなど。今回の事故も歴史上に幾度となく起こった事故とあまり変わりがないように思います。どうして人は同じミスによる災害を繰り返すのでしょうか?

沈没船の考古学を災害考古学として捉え、実際にその観点から研究を行っている専門家もいます。あまり自分の気持ちを巧く表現できたかわかりませんが、少しでも伝われば幸いです。災害を扱う研究者として歴史や考古学を通して多くの人に災害について知ってもらいたい、何とか次の災害を防ぎたい…そう切実に願う考古学者も多くいると思います。

メキシコ湾で調査中(ライブ映像もあり)

NOAA(アメリカ海洋大気局)がメキシコ湾で深海に沈む船を調査中です。

ライブ映像もあるようです。去年、発見され話題を呼んだ船ですが、あまりにポイントが深いので水中ロボットで探査しています。水中ロボから配信されるので、考古学者は遠隔で画像を見ながら支持をだし、映像を分析します。

コチラの沈没船ですが、2隻ほぼ同時期のものがすぐそばで発見されています。片方は武器などを多く積んでいますが、もう片方は武器などはなく積み荷だけ…私掠された船なのか?それとも一隻は護衛船か?

綺麗な映像が撮れていますので、ビデオだけでもご覧ください!

 

 

スコット・ランドの沈没船データベース

どうやら、スコットランドの沈没船データベースが先日ウェブで公開されたようです。言葉で説明するよりも見てください…

沈没船の位置、遺跡に関する情報や参考文献などすべて見ることができます。日本の水中遺跡もこれぐらいできれば。陸の遺跡のデータベースにも参考になるでしょうね。

 

パパハナウモクアケア

ハワイのパパハナウモクアケアで発見された沈没船は小説『白鯨(モビーディック)』のモデルとなった船として知られています。19世紀はアメリカで捕鯨が盛んでした。日本に開港を迫ったのは捕鯨基地としての役割を担うためでもありましたが…時代は変わるものですね。

この度、パパハナウモクアケアにある沈没船を題材にした映画が作成され、ハワイで先行上映されるようです。この海域はアメリカの国立公園(自然遺産文化遺産)であり、また世界遺産にも登録されています。ハワイで時間のある方は是非!

パパハナウモクアケアって言いにくいけど愛着がある響きのある地名ですね。講演会などでこの船について話す機会があれば発表の前に喋る練習が必要です。パパハナウモクアケアパパハナウモクアケア…

 

鷹島(元寇船)の水中遺跡の管理計画がまとまったようです

元寇の際に使われた船が発見され注目を集めている長崎県の鷹島海底遺跡について、今後の方針案がまとまったようです。

詳しくは、新聞記事をご覧ください

発見された船はひとまず海底で現地保存をし、周辺海底を探査してより多くの沈没船の発見・周知を行う予定です。現地保存と言っても、そのまま放置するわけではありません。遺跡が現在の状態で最善であるかどうかを審査し、モニタリングを行いながら水中でほとんどかえずに現状を管理を行います。遺跡の発掘行為は遺跡を破壊することです。また、保存処理など多くの資金を必要とし、また、永続的に保護・管理・活用していくためにはその体制もつくっていかなければなりません。そのためにも準備期間が必要です。

水中遺跡は、その特異な環境にあることから、陸の遺跡と同等に扱われないことがありますが、そもそも陸の遺跡と水中の遺跡の管理方法に関しては同じ考え方で良いはずです。発掘や探査方法は陸よりもテクニカルな面がありますが、しかし、そのマネージメントや活用方法は変える必要がありません。

今までは水中遺跡が出てきたら「引き上げる」かどうかという議論が中心でした。しかし、これは少しおかしな話です。というのも、現在、陸にある遺跡はそこにあることが判っていても発掘しないのが普通です。遺跡が埋まっていればある程度安定した(保存された)状態にあります。そのため、開発がおよび遺跡が壊されるときに初めて発掘調査をおこない、記録を取ります。日本の文化財行政はこれが基本です。しかし、開発がおよぶまでなにもしないわけではありません。様々な情報から遺跡のある場所を確認し、周知します。そして、その周知のエリアが開発されるときにはじめて発掘されるわけです。

水中の遺跡も保存処理や維持費にはお金がかかります。ですので、発掘せずに「積極的」に原位置での保存を行います。また、水中の開発の場合、基本的に工事などのプランを変えることは(工事の計画段階であれば)比較的容易です。陸上の工事のように決められた土地に限定されていないことが多いからですね。そのため、工事のプランを少し変えて遺跡の現状を維持することが最善のようです。

しかし、遺跡の現状が最上でない場合もあります。砂で遺跡をかぶせたり、囲いをつくるなど様々な方法で水中で安定した状態を保ちます。遺跡の保存に向いているのは、無酸素状態でpHが7程度、バクテリアなど有機物が少ないことなどなど。これらの遺跡の保存に最適な環境を水中で作り上げ、そして、きちんとその状態を保っていられるか、定期的に遺跡にもどりさまざまなサンプリングやデータを集めます。この作業がモニタリングと呼ばれています。酸素濃度やpH、堆積層などを一年を通して調べて遺跡が安定した状態にあるかを判断します。原位置保存のためのモニタリングやその方法なかなり専門的な話となってしまいますので、グーグルでin situ preservation, underwater cultural heritage management,などのキーワードで調べてみてください。

日本の水中遺跡について少しでも興味のあるかたはにはすっかりお馴染みになった鷹島海底遺跡。水中遺跡として国の指定史跡となったのは初です。もちろん、水中にある周知の遺跡は他にもたくさんありますが、そのお話はアジア水中考古学研究所(ARIUA)をご覧ください。今日は鷹島についてのおはなしですが、もちろん、他の水中遺跡についても同じような管理・マネージメント・モニタリングをおこなっていかなければなりませんね!

スウェーデンのアトランティス発見…ではありません。

ある意味面白いニュースです。ニュースメディア(タブロイド)と考古学者のモノの考え方の違いが顕著に出ています…メディアは珍しいもの、面白いもの、売るためにインパクトのあるものを伝えようとしています。しかし、考古学者はそんなことは関係なく事実を伝えることに終始しています。

 

英語ですが、ニュースを二つ読んでもらいたいと思います。まずこちら。

このニュースの見出しは「石器時代のアトランティス発見!」と書かれてます。しかし、考古学者のインタビューではそれを完全否定(というか、そんなことどうでもよい)、「一時的なキャンプサイトであった」としています。石器や木器などが発見されています。埋葬の跡などがないか今後3年間でスウェーデン国家文化遺産局による学術調査が行われるそうです。

ニュースの記事はなぜかほとんどアトランティス伝説について書かれています...そういえば、2013年の5月にしんかい6500が、大西洋で堆積層を発見した際に、「アトランティス発見」というメディア側の売込みがありましたね...

 

そして、この次のニュースはこちら

 

こちらでは、もう少し詳しく発見について書かれています。1万1千年ほど前にこの地域にラグーンが形成されて遺跡が水没したようです。(もちろんもともと陸にあった遺跡)この時期の遺跡から有機物が発見されることはあまりなく、水中にある遺跡だからこそ木材など多く残っており、良い研究資料であるそうです。すでにこの地方では絶滅した動物の骨なども残っています。木材だけでなくロープなどの有機物も残っているようです。

調査したニルソン氏がインタビューに答えています…

Nilsson admitted that “lousy Swedish tabloids” had blown the story out of the water by labelling the find “Sweden’s Atlantis”

質の悪いタブロイド誌により話が大きくなりすぎた...そうです。しかし、貴重な発見であることは間違いないようです。

海事・水中考古学を学べる大学

海事・水中考古学を学べる大学のリストをユネスコが作成しています。

これらは、現在、大学(マスターレベル)でのプログラムが確立している大学の紹介ですので、例えば昔プログラムがあった大学や、水中考古学のクラスはあるけどプログラムがない大学は含まれていないようです。水中考古学のクラスがある大学はそれなりに(海外では)あるようです。

大学の数が多いのか少ないのか…まあ、人によって感じ方は違うでしょうか...ざっと眺めて、やはりヨーロッパはこの学問が一般的だなと感じることです。地域によってだいぶ差がありますね。

個人的には、これから10年、このリストがどのように変化するのかが楽しみです。

 

水中探査に使用するロボ達について〈入門編〉

水中遺跡の探査に使用するロボット君達には簡単に分けるとこの二つがあります…

ROVとAUVです。今日はこれらを簡単に紹介します。ネットで検索するといろいろな水中ロボットが見れますので、そちらも参考に!

ROV (Remote Operated Vehicle) 簡単にいうと、水中ロボットです。アームのついているものもあります。ただし、ケーブルでつながって操作しているので、いろいろなものに絡まる危険性などがあります。ケーブルだいたい±0の浮力です。ちなみに、ケーブルを使う理由は水中ではラジオ波が拡散するので、いわゆるラジコンのようには操作できません。

考古学調査では、特に機体はプラスの浮力のモノを使います。そして、スクリュー(プロペラ)は下向きに動かないように改良します。プロペラを下に向けると砂を巻き上げるのでNG。上に動くときは浮力で上がって、作業中は常に下に押さえつける感じです。あまり早く動けないので、発見した遺跡の確認調査や簡単な発掘に向いてます。日本語では遠隔操作無人探査機。商業用で購入が可能。レンタルも一般的になっています。

AUV (Automous  Underwater Vehicle) こちらは、自分で勝手に決められたコースを走ってデータを収集してくる優れものです。様々な探査機材(音波探査・磁気探査)を積み込めます。長時間潜って広い範囲を探査することができます。遺跡があるかないかのサーヴェイに適していますが、発掘などには向いていません。自立型無人潜水機といいます。マサチューセッツ大学(MIT)などでハイブリッドAUVなども考古学への利用のため開発を進めていましたが… AUVはまっすぐに決められたコースなどを走り、探査の効率を高めるのが普通でした。でも最近は、自分で考えて遺跡の上を回って、写真実測・レーザー測量のデータをあつめて三次元実測も行ったりしています。AUVはまだまだ単価が高いので、国の施設や大学が使っています。日本の場合は東京海洋大学が考古学探査で使用しています。

ちなみに、ASV (Autonomous Surface Vehicle)  もあります。こちらは、AUVとほぼ同じですが、Underwaterではなくて、サーフェスです。船のように水面から調査します。発掘は無理ですが、単価がAUVより安くすみます。また、遠隔操作も可能なものもあるようです。

 

はて、潜水艦(潜水艇)は使わないの?と思った方はいるでしょう。しかし、潜水艦などはあまりにも高価になるので水中考古学には向いていません。スポンサーや国の役人などVIPを遺跡に招待するにには使えそうですが、作業には使いませんね。20年くらい前でしたら使っていましたが、ROVやSUVがあるので必要ないですね…残念。小型潜水艇はたまに使われているようですが、メリットがあまりないようです。

 

ニュースのまとめ

ここ2~3日の水中考古学関連のニュースをまとめました。本当は、毎日これぐらいはお伝えしたいのですが…世界のニュースなので英語がメインです。セノーテの動画は綺麗ですね...

 

タイタニック・テーマパーク中国にオープン予定

http://www.reuters.com/article/2014/01/13/us-china-titanic-idUSBREA0C06S20140113

 

スリランカ沖で蒸気船発見

http://www.nation.lk/edition/news-online/item/24945-largest-steamer-shipwreck-discovered-off-batticaloa.html

 

ワイト島(イギリス)にある8000年前の水没遺跡が失われつつある…

http://www.iwcp.co.uk/news/news/archaeology-at-risk-52385.aspx

 

マヤ文明のセノーテ(水中洞窟)のビデオ。ナショナルジオグラフィックチャンネル

http://news.nationalgeographic.com/news/2014/01/140116-maya-mexico-yucatan-cenote-bones-haunted-taboo-archaeology-science/

 

スコットランド沖のサーヴェイで新たに沈没船を数隻発見。

http://www.bbc.co.uk/news/uk-scotland-highlands-islands-25757943

 

オーストラリアに最初に到達したのは、ポルトガル?

http://www.bbc.co.uk/news/world-asia-25763688