水中考古学の薦め

人間の新しい環境に乗り出していく好奇心と挑戦心が物質的にあらわれたもの、それが“ふね”です。考古学は水中であれ地上であれ基本とすることは全く同じです。過去を愛する人、遺物を将来のために守っていく心を持った人の集まりが水中考古学を発展させていくことでしょう。トレジャー・ハンティングや水中考古学まがいのものが日本では認知されてきていますが、考古学の目的は遺跡・遺物の保護です。過去を大切にすること、それが第一原則です。今こそ日本人の海への関心を高めるべきです。地上の重力に魂を束縛された人間の心を解放し、水中遺跡の関心を高めていく。それが私の使命だと考えています。

2005年4月2日 Randall Sasaki

トルコ軍艦「エルトゥールル号」保存処理進行中

和歌山県串本沖で発見された19世紀末のトルコ軍艦「エルトゥールル号」の調査で回収された遺物の保存処理が行われています。この沈没船はトルコと日本の友好を深めるきっかけになった船です。遭難した船の乗組員を日本の大島・串本の住民が介護をしたことで有名です。

保存処理は遺物によっては何十年と掛かることがあります。鉄は特に厄介で、錆が進行すると、周りの遺物や砂、貝がらなどを取り込んで膨れ上がります。てんぷらの衣のようになります。一見するとコンクリートのようにかちこちですが、中に遺物が詰まっているため、海中でばらばらにするよりもまとめて引き揚げて、保存処理をしながら解体していく作業になります。そのため、発掘してから何年もしてから貴重な遺物が見つかる場合もあるのです。

エルトゥールル号の今年の調査は発掘は行っていないようですが、このコンクリーションの中からさまざまな遺物がでてくることでしょう。今回発見されたのはコーヒーミルだそうです。

「エ号」関連のニュースはいろいろありそうです。映画が作成されているとか?いや、発掘の映画ではなくて、「エ号」についての。トルコの映画っていままで2-3作しか見たことがないのですが、日本でも公開されるようですね。

海賊黒ひげの剣

お馴染み海賊黒ひげの沈没船調査から剣が発見されたようです。ただの剣ではなく、金などで装飾が施されていた模様。詳しくはナショナルジオグラフィック社のニュースをご覧ください。また、「沈没船が教える世界史(メディア・ファクトリー)」にも海賊黒ひげの調査について書いています。

個人的な見解ではこれが海賊黒ひげの剣と言えるかと問われると、答えるのは難しいですね。彼は船を座礁させて、自分は逃げたわけですから、高価なものは持っていったはずですよね。それか、どこかに隠してあったものか。もしくは、彼はもっと高価な剣を幾つか持っており、今回発見されたのは、別に捨てても良かった剣だったか?あまり使いやすそうな剣ではないですね。

黒ひげ本人が描かれた試料など残っていますが、剣の細部まで詳細に残されているものは、どこまで信頼できるのか?この発見の考古学的価値は?これも難しいですね…装飾品などは個人の好みが反映されやすいのでスタイルなどが統一されていないのが普通です。なので、土器などと違いどこの時代に誰がどのように作ってどう流通したかを探るにはあまり向いていません。土器などは専門家が見れば特定は直ぐに出来ますが、このような発見は、それ単体がユニークであるが故、特定が出来ない場合が多いです。この破片から剣が作られた場所などが特定できれば良いでしょうが…どうでしょう。 

日比野克彦が迫る 海底遺跡の謎

もう今頃は巷に出回っている月刊ダイバー2月号で去年行われた日比野克彦さんと水中考古学者林原利明のトークショーの内容が取り上げられています。

興味のある方は書店でお求めください。

もしくはこちらから

歴史考古学総会

1月4日ー9日にかけてSociety for Historical Archaeology(歴史考古学学会)が主催する歴史・水中考古学総会がテキサス州のオースチンありました。この学会は早くから水中考古学、おもに沈没船の研究に力を入れており、毎年何百人もの水中考古学者が集まり最新の研究を発表しています。プログラムはジェネラルセッション、陸上考古学セッション、水中考古学のセッションに分けられています。

プログラムを見る限り今年は、不思議といろいろと節目の年であったようですね。水中考古学誕生50年のセッションはジョージ・バス先生のトークから始まり(私もこのセッションでベトナムの調査について発表しました)、地中海ももちろんですが、カナダのゴールドラッシュの船、カリブ海のヘンリー・モルガン(あのラム酒のラベルで使われている海賊の人)など世界のいろいろな地域の調査が紹介されました。ヴァーサ号も50周年だとか。もうそろそろすべての遺物の保存処理と分析などが完了するそうです。最新のデジタルレコーディングなどを使ってヴァーサ号の船体を記録しているようです。メキシコ水中考古学誕生30周年でもあったようですね。メキシコは資金がないなか地域の協力を得ながらいろいろとがんばっているようです。また、短期のプロジェクトなどは低所得者層や災害で職を失った人をトレーニングしているそうです。保存処理などは単調な仕事などがあるので、効率が良いということでしょう。

その他のセッションでは最新のROV(水中ロボット)やサーヴェイの方法などなどいろいろと面白い発表がありました。また、サイパン戦争遺跡の全体的なサーヴェイも行われており、GISを使い遺跡の位置のデータベース化など行われているようです。私も子供のころサイパンに行って海の中にある戦車で遊んだ記憶があります。2010年にプロジェクトが始まったばかりなので、これから日本からも協力を得たいとのことです。特に発掘などはおこなわず、遺跡郡全体の把握を目的としています。

この学会には世界から水中考古学者が何百人と集まるわけですが、アジアからの参加は私が知っている限り無し…今後アジアでもこの学問が発展してくれることを願っております。

 

ペリーのお兄さんの船発見!

ペリーと言えば皆さんご存知、日本に開国を迫ったあの、ぺりーさんです。実は彼の家は名門海軍一家。彼のお兄さんも有名な海軍の船長でした。つい先日、お兄さんの船がアメリカ・ロードアイランド州沖で発見されたようです。1811年沈没で、今年がちょうど200周年!

実は地元ダイバーにより数年前に発見されていたそうですが、極秘?で調査がされていたようで、200周年に合わせて発表されたそうです。発見者は独自の調査により99%ペリーの船だと確信しているそうです。

専門家により調査はほとんどおこなわれていないようですが、アマチュアダイバーによって発見・調査されることはそう珍しくありません。貴重な水中文化遺産はこのように地域の人たちによって守られていくのが、今後の良いシナリオではないでしょうか?

You Tubeのビデオ

Deetz Award 

アメリカの歴史考古学学会(Society for Historical Archaeology-SHA)は毎年1月に学会を開催しています。その中で毎年ブックアワードでDeetz Awardがあり、特に新しい分野などに貢献した1冊の本が選ばれます。

今年は、このサイトではお馴染みのJames Delgado先生の”Khubilai Khan’s Lost Fleet”が選ばれました!Delgado先生はナショナルジオグラフィックテレビの取材で長崎県鷹島の元寇遺跡を訪れ、蒙古襲来に興味を持ったようです。その後も日本の水中考古学の活動を影ながら支えております。この本はそれほど専門的なことは書かれていません。考古学の本ではありますが、あまり詳しくはなく、歴史の本として売られているのか、考古学として売られているのか、微妙なところです。実は先生は私に「専門なところはお前が書くんだ」と、この本はその前座として書いたものなのです。。で、私の本は現在出版社で校正中なので、今年中には出版されるでしょうが、なにぶん英語で専門的なので、日本の読者にはほとんど届かないでしょう。機会があれば、日本語訳を出したいですね。ただし、新安沈没船の隔壁が12cmだ、蓬莱1号は8cmだ、などなど…専門書は面白く書くのは難しい!まあ、面白く書くことが目的ではないので仕方が無いか…

さて、先生の本ですが、専門的ではなくアメリカの一般向けの本ですので、日本の歴史や元寇について分かりやすく書いてあります。とても読みやすい物語のような感じです。日本人としては、物足りない気がするでしょうし、また、太平洋戦争の「神風」などにもページ数を費やしているのは、「やっぱり」アメリカ向けと感じてしまいます。それはそれでいいのでしょうし、このように海外で評価されているのは良いことでしょう。海外からみた蒙古襲来を学ぶにはとても面白いかもしれません。英語もそれほど難しくないですし、本を毎年数冊出すかなりの書き手なので、やっぱり表現力が巧いです。英語でこんな風に書けたらなといつも思います。そう考えれば英語を学ぶためには良い本でしょう。

今年のブックアワードに選ばれたのは少しびっくりしましたが、それだけ日本やアジアの水中考古学が海外から期待されているということでしょう。長崎県松浦市から発掘の報告書などが出されていますが、まだまだ日本を代表する水中遺跡を知らない日本人は多いことでしょう。もう少しポピュラーな蒙古襲来と考古学とか、水中考古学が明かす元寇の謎みたいな本があればいいですね。

ちなみに、長崎県鷹島には歴史資料館があり、現在保存処理中の遺物なども頼めば見せてくれるとおもいます。つり好きの人は是非ついでにどうぞ。

ミシガン湖に流れ着いた沈没船

アメリカ・ミシガン湖の州立公園内で1800年代の沈没船の一部が公園を訪れていた一般客によって発見されたようです。
海岸を散歩していた人がもしかしたら古い時代の船の一部ではないかと思い連絡をしたそうです。専門家はまだ写真でしか確認しておらず、現地にはまだ船の一部が残されているようです。

特に大発見と言うわけでは、ありませんが、このようなニュースは時々見かけます。海岸を注意深く見てみるといろいろと発見があるかもしれませんね。もしかしたら、世紀の大発見があるかもしれません?沈没船はこのような一般の人からの情報により発見されたケースが殆どです。何か海岸で「もしかしたら」と思ったものがあったらぜひ連絡をおねがいします。

CNNのビデオはこちらから

ユネスコ水中文化遺産アップデート

2010年も残すところ数日となりました。以前から紹介しているユネスコが進める水中文化遺産保護条約ですが、今年も加盟国が増えました。年末ということもあり、おさらいです。ざっと簡単に説明しますと、水中文化遺産の保護について国が積極的に取り組みこと、国際協力を行うこと、遺物の売買禁止、無駄な引き揚げを抑えて遺産の保護管理を中心とすることなどがユネスコが薦めている方針です。

現在のところ36ヶ国が合意しています。今年は新たに7カ国が加わりました。特にイタリアとアルゼンチンが加盟したことは大きな意義があるでしょう。ところで、コンゴに海はあったの?と思うかもしれませんが、湖や川など水中にある文化遺産(水没遺跡など)の保護も目的としているので沈没船だけに限ったものではありません。ちなみにコンゴは海と繋がっています。アフリカの国々で水中文化遺産保護の意識が芽生えていることはすばらしいことだと考えています。

気になるのが、アジアの参加国なのですが…今のところカンボジアだけです。また、中国、アメリカ、オーストラリア、イギリスなどが参加していないのも非常に残念なことです。これらの国はすでに独自の法律などがあり、なかなか新しい国際法に対応するのが難しいと言う側面も持っています。しかし、スペインは2005年にすでに調印し、精力的に水中文化遺産の保護に乗り出しています。

2011年には私の勝手な予想では40カ国は超えると思いますが、どこかアジアの国が加わって欲しいものです。水中文化遺産は共通の財産であり、私欲のための引き揚げ、商業目的での利用、遺物の売買などは禁止されています。我々水中考古学者にてっては当たり前のことなのですが、国際法の整備となると様々な問題を抱えているようです。その解決のためには、海底ミュージアムや地域参加型の遺跡の保護活動、ダイバーや漁業関係者への呼びかけなどいろいろとやるべきことは残っているようです。多くの人が水中文化遺産の重要性を理解するところから始まっていくものと思います。

1 Albania  2009
2 Argentina  2010
3 Barbados  2008
4 Bosnia and Herzegovina  2009
5 Bulgaria  2003
6 Cambodia  2007
7 Croatia  2004
8 Cuba  2008
9 Democratic Republic of the Congo  2010
10 Ecuador  2006
11 Gabon  2010
12 Grenada  2009
13 Haiti  2009
14 Honduras  2010
15 Iran (Islamic Republic of)  2009
16 Italy  2010
17 Jordan  2009
18 Lebanon  2007
19 Libyan Arab Jamahiriya  2005
20 Lithuania  2006
21 Mexico  2006
22 Montenegro  2008
23 Nigeria  2005
24 Panama  2003
25 Paraguay  2006
26 Portugal  2006
27 Romania  2007
28 Saint Kitts and Nevis  2009
29 Saint Lucia  2007
30 Saint Vincent and the Grenadines  2010
31 Slovakia  2009
32 Slovenia  2008
33 Spain  2005
34 Trinidad and Tobago  2010
35 Tunisia  2009
36 Ukraine  2006

福建省沖サーヴェイの成果と最近の中国の現状

福建省廈門市沖で2004年から2009年にかけてサーヴェイが行われていたようです。約 676,000 平方キロが探索され、考古学調査が可能な沈没船30隻ほどが発見されたそうです。(だいたい琵琶湖と同じ大きさの水域がサーヴェイされたようです)これらの沈没船はどれも積荷が良く残っていたようで、海のシルクロードの解明にむけ調査が進められることでしょう。

最近ではダイバーや漁業関係者が沈船を荒らすようで、ほとんどの沈没船がすでに被害に遭っているようです。これらの違法サルベージを取り締まりでは2006年には45件あり、遺物7000点以上が、そして、2005年には25件、2700点の遺物がこれらの違法ダイバーなどから回収されそうです。

今後中国は水中文化遺産の保護法をしっかりと成立させ、また同時に沈没船の調査も進めていく予定です。現在のところ、中国の水中考古学者の数は100人ほどと、まだまだ国の大きさに比べて少ないですが、どんどん力を入れていくそうです。

『沈没船が教える世界史』 12月24日発売予定です

長年このウェブサイトをご覧の皆様におしらせがございます。どうも、ここ最近はニュースなどのアップデートの頻度が減ったなとお感じだったことと思います。それもそのはず、実は執筆活動を行っておりまして、少しサボってしまって部分もありました、お詫び申し上げます。今後はすこしずつまたペースを上げれればとかんがえていますので、よろしくお願いします。

さて、実はメディアファクトリーの新書でこの度「沈没船が教える世界史」が発売予定となっております!12月24日が発売予定日となっております。メディアファクトリーの新書のページでも多少情報がご覧になれます!新書ですので、読みやすく書いてあるので、誰でも興味があれば面白く読んでいただけると思います。お値段もお手ごろ価格!

水中考古学とか沈没船の考古学というとどうもオカルト、財宝、詐欺、など真面目にとらわれない部分も(日本では)多いようですが、この本を通して真面目な学問の世界を面白く分かりやすく知っていただけたらと考えています。後ほど詳しい情報などを改めてお伝えします。