水中考古学の薦め

人間の新しい環境に乗り出していく好奇心と挑戦心が物質的にあらわれたもの、それが“ふね”です。考古学は水中であれ地上であれ基本とすることは全く同じです。過去を愛する人、遺物を将来のために守っていく心を持った人の集まりが水中考古学を発展させていくことでしょう。トレジャー・ハンティングや水中考古学まがいのものが日本では認知されてきていますが、考古学の目的は遺跡・遺物の保護です。過去を大切にすること、それが第一原則です。今こそ日本人の海への関心を高めるべきです。地上の重力に魂を束縛された人間の心を解放し、水中遺跡の関心を高めていく。それが私の使命だと考えています。

2005年4月2日 Randall Sasaki

お金について...

ここ数日、アジア水中考古学研究所の海底ミュージアム構想のブログのエントリーがなかなか的を得た内容です。

水中文化遺産調査は,お金がかかる?
「水中考古学」を学ぶには?
「水中考古学」と「水中遺跡」,そして「水中考古学者」

どれもなかなか鋭い指摘です。中には、「え?そうなの?」と思うようなこともあるかもしれません。

さて、私個人の意見ですが、少しまとめてみました。

水中考古学にお金がかかる!と思うのは「もったいない」ことだと思います。また、水中遺跡は別に珍しくもなんともない、「普通の遺跡」なんです。その普通の遺跡にお金が掛かるから...というのは少しおかしなことだと思います。

お金がかかるというイメージ(幻想)は、たぶん、世界の有名な沈没船の事例によるものだと思います。世界の大規模な事例を見ると(ヴァーサ号・メリーローズ・新安沈没船・南海1号船など)どれも、成功を収めていますが、莫大な費用を必要としました。また、他の水中遺跡に目を向けられなくなる期間が続くことが懸念されますし、実際に各国でそのようなことが起きました。韓国も、本当に水中考古学に力を入れることが出来るようになったのも、ここ15年ほど前からです。

今、世界では大きな沈没船が発見されても大規模な発掘をしないことがほぼ前提となってきています。これには、小さな遺跡にこそ大きな価値がある場合が多いことが長年の調査を積み重ねることにより、分かってきたからです。そして、水中遺跡がどこにでもある普通の遺跡であることが認知されています。大きな遺跡を発掘しなくても、素晴らしい成果が得られています。International Journal of Nautical Archaeologyをはじめとした、専門のジャーナルなどでその成果は見ることができます。
 
たしかに、これらの大きな沈没船プロジェクトから得られた成果は素晴らしいですが、学問全体としてみると、どうなのでしょうか?大きなプロジェクトでなくても、各地に多くの水中遺跡があります。これらの遺跡を周知させ、保護することが実は重要です。大きなプロジェクトの影で小さな遺跡が破壊されては、お金を費やした意味がありません。大規模なプロジェクトが水中文化遺産の重要性を知るきっかけとなったのは確かです。1960年代から始まり、世界各地で大きなプロジェクトが行われて、水中考古学という学問が発達する契機となりました。しかし、日本でも同じように「きっかけ」が必要なのでしょうか?他国の例で充分なのではないでしょうか?

小さなプロジェクトはそれほどお金を必要としません。また、「陸の遺跡」に費やす費用も日本全体のトータルで見ると莫大なお金です。それに比べると、水中の遺跡に掛かる費用はそこまで大きくはないでしょう。また、日本のように火山の多い場所の地質は有機物の保存に適していません。しかし、水中は有機物の保存に最適な環境となる場合が多くあります。そのため、陸上では珍しい有機物(木材など)を多く含んだ遺跡が発見されることが多いようです。昔から豊かな自然に恵まれ、木材を大切に使ってきた日本人の文化の一部を陸上の遺跡もよりも鮮明にみることが出来ます。また、日本文化は海外との交流の中で育ってきた文化です。外国の影響が入る唯一の手段が船です。そのメカニズムを物質文化から解明できるのは沈没船だけなのではないでしょうか?

このような水中遺跡なのですが、「普段は目に見えない」のでその周知が遅れているのは事実です。しかし、日本全国で小さな水中遺跡がたくさんあります。アジア水中考古学研究所の調査事例を調べていただくとわかりますが、実は、水中遺跡は日本各地に存在しています。どこにでもあるものなのです。調べてみると、自分が良く行く海の前に遺跡があることでしょう。

学者・専門家が行うことは発掘調査などの成果を発表すること。研究会なども行われていますし、ジャーナルなどもあります。興味のある人は調べてみると新しい発見があるはずです。

アジア水中考古学研究所(ARIUA)

第4回 水中考古学セミナーのご案内

このたびは第4回水中考古学セミナーのご連絡を申し上げます!

日本の一般の皆様に水中考古学の魅力を知っていただきたく開催いたします。専門的な集まりではなく、広く様々な分野でご活躍の皆様にも学問を広める目的でオーガナイズされました。水中考古学について何も知らない人のためのセミナーでございます。どなたでも無料で参加いただけます!

第一部は日本の考古学の現状として、さまざまなエリアから調査・研究発表を行います。時代は古代から縄文・弥生はもちろん、中世~近・現代の水中考古学の調査の事例をご紹介します。また、地域も、北海道から関東、近畿、九州・沖縄と幅の広い講演をご用意しております。第2部は座談会・ディスカッション形式によって幾つかの質問をご用意し、会場の皆様に水中考古学の魅力について語ります。セミナーの内容だけではなく、発表され方々も大学の先生から博士課程の生徒などバラエティーに富んでおり、いろいろなアプローチから水中考古学について語ります。

なお、会場のお席は数に限りがございますので、ご参加の方は事前にご連絡いただければお席を確約いたします。もちろん当日参加もOKですが、ご盛況の場合、お席がご用意でない可能性もありますので、ご了承の上おいでください。

その他、ご質問・受付などは 090-5288-2255 もしくは、 shipwreckarchaeology@gmail.com までお問い合わせください。

 

日時: 2012年 10月6日 (土)  13:15 - 17:15  〔12:45開場〕

場所: 桜美林大学四谷キャンパス 地下ホール  地図はこちら

主催 桜美林大学大学院国際学研究科

 

第1部 講演 日本の水中考古学: ケーススタディ

 

日本における水中文化遺産と水中考古学の現状   (アジア水中考古学研究所:林原利明)

 

水中ロボットを利用した葛籠尾崎湖底遺跡の調査の現状と課題  (立命館大学:矢野健一)

 

元寇遺跡の研究および船体構造哲学 (テキサスA&M大学・博士後期課程 :Randall Sasaki)

 

瀬戸内海の海洋文化景観  (南カリフォルニア大学・博士後期課程 :Michelle Damian)

 

四爪鉄錨の基礎的研究 (金沢大学・博士前期課程:松井広信)

 

勝浦ハーマン号海底遺跡の調査について (日本水中考古学調査会:井上たかひこ)

 

第2部 討論 “水中考古学の魅力”

 

ディスカッション Bruce Batten (桜美林大学)

 

PDFでご案内第4回水中考古学セミナー(10月6日)

水中考古学勉強会のお知らせ

最近、特に去年の鷹島海底での元寇船の発見を境に、日本でも『水中考古学』という言葉がメディアなどにも良く取り上げられるようになってきました。しかし、まだまだ一般には理解されていない部分が多いようです。

そこで、今回は、このサイトを運営を代表するランドールササキと特定非営利活動法人アジア水中考古学研究所(ARIUA)が共同で水中考古学の勉強会を開催いたします!第一部は一般からの質問に対して答えるプレゼンテーション、そして第2部はARIUAの代表によるプレゼンの2本立てとなっております。

開催日:9月1日(土)
  時 間:13:30~17:00  1部:13:30~15:00  2部:15:00~17:00
  場 所:東京海洋大学・越中島キャンパス3号館4階405室
        東京都江東区越中島2-1-6 
  内 容:1部 水中考古学入門講座「水中考古学で知りたいこと」
      2部 ARIUA関東・勉強会「水中文化遺産をめぐる国内法整備の必要性」
      (報告1)国内の関連国内法と埋蔵文化財行政  林原利明(ARIUA理事)     
       (報告2)水中文化遺産保護条約から学ぶもの―国内法整備の必要性 中田達也(ARIUA会員・東京海洋大学准教授)

  その他:参加費は無料で,どなたでも参加できますが,会場準備もありますので,できるだけ事前に参加連絡をいただきたいと思います.もちろん,当日参加も大歓迎で,1・2部どちらか一方への参加も可能です.
 
チラシ(PDF)はこちら

特に第一部では皆様からの質問を元にプレゼンテーションを作りますので、質問をどんどんお寄せください。当日参加されない方でも結構です。その場合、質問はその場で出来る限りお答えしますし、また、連絡先をお答えいただければ後日詳しい情報などもお伝えすることが可能です。

この勉強会の目的は一般の特に水中考古学に関わる可能性が少ないとお考えの皆様を対象としております。これは、世界の水中遺跡の圧倒的大多数が、そのような考古学に全く興味を持たなかった人により偶然発見されているからです。考古学者が水中遺跡を発見するケースはあくまで(最近までは)例外といっても過言ではないかもしれません。つまり、一般の方々にどれだけ水中文化遺産の保護の大切さが浸透しているかが、今後の水中考古学の可能性を見極めるひとつの指標となると考えています。

内容は難しいものではないので、多くの人に参加していただければ幸いです。

イランで水中発掘(アメリカも協力)

ペルシャ湾の有名な港町の遺跡、Sirafで、この度イランの考古学者がアメリカの考古学チームとの協力のもと、水中での発掘調査を行うそうです。

イランとアメリカは政治的に色々問題があるようですが、水中文化遺産を守り、歴史を解明していく考えは一致しているようです。有名な遺跡なので、今後の調査で良い結果を期待しています。

短い記事ですが、今後もっと情報が出てくることを期待しております。

黒海のサーヴェイ:ライブ配信中!

現在、黒海の海底にある沈没船を探すサーヴェイが行われているようですが、ライブ配信をおこなっています。サイドスキャンでのサーヴェイのほかに、ROV(水中ロボット)などを使っています。すでに何隻か沈没船を発見して、それらのハイライトが編集されたビデオで見ることが出来ます。

24時間ライブ放送をしているので、いつ、何が起こるかわかりません。見る時間によって色々な作業をしている場合もありますし、ただ単にサイドスキャンの映像を見ているだけの場合もあります。ですが、もしかしたら、世紀の発見の現場を見ることになる可能性もあります!

黒海は有機物の保存状態が良い状態で残っている可能性が高い場所として知られています。マストなどが立ったまま残っている船なども確認されています。時々のぞいてみてください!

ギリシャの国立博物館 アンティキティラ島沈没船

ギリシャ国立博物館で「アンティキティラ島沈没船」の特別展示が行われているそうです。この沈没船は、今から100年ほど前に発見され、発掘されたものであり、いわば、水中考古学のルーツのような存在の遺跡です。

古代ローマ時代の様々な遺跡が保存の良い状態で発見されています。この当時は、考古学者ではなく、ハードヘルメットを被ったスポンジダイバー達を遺物を引き揚げて、それを陸にいる考古学者に渡していました。今の水中考古学の位置記技術とはかけ離れていますが、まあ、100年前のことですから...

さて、この遺跡の最も有名な遺物といえば、「コンピューター・天体観測装置」です。小さな箱に大小様々な歯車が入った装置ですが、ここまで精密な機械が当時実際に作られていたことが実証されています。同等の技術を持った遺物は類がありません。この機械については、ウィキペディアなどで、読んでみてください。

その沈没船の展示が行われているそうです。時間とお金があれば是非いきたいですね。100年前に発掘された遺跡でも魅力は満載です。リンク先のビデオなども良くできてますので、興味のある人はご確認ください。

第4回水中・海事考古学セミナー開催決定!

去年から今年にかけていろいろと水中考古学が新聞やテレビなど様々なメディアに取り上げられております。また、今年は水中考古学に関連した書籍も幾つか出版されており、いよいよ日本でもこの学問の認知度が高まってきた気がします。

しかし、日本の水中考古学の取り組みは世界の国々に比べ遅れているのは、確かです。韓国やインド、フィリピンなど国の機関が水中考古学を先導しています。また、海に面した国で水中文化遺産の保護を法律で明確にしていない国は世界でも珍しいです。これらは事実として受け止めるべきですが、しかし、日本の考古学の成果を見ると、まだまだこの分野で充分に力を発揮していける力はありますし、貴重な遺産を守っていく必要があるのは当然です。

鷹島海底遺跡がクローズアップされていますが、実は日本にはたくさんの水中遺跡があり、列島各地で成果を挙げております。そこで、第4回水中・海事考古学セミナーの開催が決定いたしました!このウェブサイトを長年愛読していただいている皆様には懐かしい企画ではないでしょうか?第2回目の開催では100名近くもの参加者に来ていただき、水中考古学の魅力をお伝えしました。

今回のセミナーは日本各地の水中考古学の研究成果と、様々な時代の遺跡を紹介します。縄文・弥生の遺跡はもちろん、中世や近世の遺跡、そして、近・現代の研究成果をお伝えします。数名の専門家による講演、そして、その後のお客様を交えたディスカッションなどを行います。水中考古学の成果を発表するのはもちろんですが、この学問の魅力もお伝えします。もちろん、元寇の鷹島海底遺跡の船についての研究の発表などもあります。

詳しい内容などは後日発表いたします。このウェブサイト、フェースブックやツイッターなどでも情報をお伝えいたします。

【日時】 10月6日(土曜日)午後

【場所】 桜美林大学四谷キャンパス

【主催】 桜美林大学大学院国際学研究科

お問い合わせは、このウェブサイトからお願いいたします。

『旅する長崎学』「蒙古襲来 神風の島 鷹島 -水中考古学が語るもの-」が開催されます。

ちょうど鷹島海底遺跡での調査が先日終わったそうです。メディアなどで少し取り上げられるそうですので、インターネット・新聞・テレビなどで鷹島の情報を探してみてください。

そんななか、東京で鷹島海底遺跡についての講演が長崎県が企画しているようです。『旅する長崎学』「蒙古襲来 神風の島 鷹島 -水中考古学が語るもの-」が開催されます。

8月21日の一日だけのイベントですが、当日11:00から、会場前のロビーにおいて、「鷹島海底遺跡」の遺物展示を行い、  パネル展示やパンフレットの配布など、長崎県の魅力や情報を発信するそうです。

午後(17;00~)には高野晋司先生(長崎県学芸文化課専門員)や池田榮史先生(琉球大学教授)による対談もあります。

場所は江戸東京博物館 1階ホール(東京都墨田区)です。申し込みが必要とのことです。

台風接近に伴い...

大型の台風4号が日本に接近していますが、皆さんご注意を。さて、台風ですが、もちろん元寇と馴染みが深いのはご存知ですよね。今年、水中遺跡としては初の国指定を受けた鷹島の元寇関連海底遺跡ですが、今月に調査が予定されています。台風4号が九州に接近しているため、少し調査の進み具合が懸念されます。今回の調査は短期間ですので、どれほどメディアに取り上げられるか判りませんが、ニュースなどが出て来次第お知らせします。海底調査も台風では発掘出来ないのは当然です。ですが、実は台風は水中考古学者にとっては調査ができない以上に複雑な関係があります。

特に風の強い台風は、波も強く、海底面にも影響を及ぼします。海底の砂やシルトが波の影響でかき混ぜられることが良く在ります。そうなると、海底の底に埋まっていた遺跡も撹乱されてしまうことが多いようです。もちろん、撹乱されれば遺跡内の遺物の位置関係もバラバラとなり、遺物なども劣化が進んでしまいます。こうなると、台風は考古学者にとって悪いことばかりに考えられるかもしれません。しかし、実は台風が考古学者にとって良い結果を生む場合もあります。

砂に埋もれた海底遺跡はなかなか発見できるものではありません。ソナーやマルチビームなどの音波探査機は「音の反射」で海底面を映し出す機械ですから、砂に埋もれた遺跡は見ることができません。磁器探査期やサブボトム・プロファイラーなどは砂に埋もれていても反応しますが、これらの機材だけでは何が埋もれているか判断することは難しいです。そこで、沈没船などの遺跡の発見に最も効果的なのが、一般の海に関わる人々からの情報です。実際に世界の殆どの水中遺跡が偶然に考古学者以外の人によって発見されています。

つまり、話を元に戻しますと、台風などで撹乱されると、海の地形が大きく変化します。そこで、それまで埋もれていた遺跡が顔を出すことがあります。そのときが遺跡を発見できるチャンスとなるのです。しかし、時間が経つと遺跡が劣化してしまうのは確かです。現在、海底面にある遺跡は、つまり、ごく最近の台風などにより「たまたま」海底面に露出している状態になります。この機会を逃すともう遺跡が失われることになります。沈没船遺跡は何百年も沈んだそのときの状態のように見えるため、そのまま放置しておいてもずっと残っていると思われがちですが、実はどんどん劣化が進むのです。遺跡が露出した状態なら、それは、貴重な遺跡を調査するまたとないチャンスなのです。

水中考古学が一般の間でもポピュラーで指示されている国や地域では、台風の後に、良く市民が海外に出かけてビーチコーミングなどを行います。イスラエルなどは大きな嵐のあとには良く沈没船の発見のニュースが相次ぎます。また、アメリカ東海岸でも、ハリケーンが去ったあとには似たようなニュースが飛び込んでくることがあります。

台風が去った後に、海岸に出てみたり、海に潜ってみませんか?もちろん、安全のため、完全に台風が通過してから海に行ってください。そして、何か不可思議な物体や、遺物が散乱していたら、市町村の教育委員会に連絡をしてください。また、アジア水中考古学研究所や、このページを通してもご連絡していただければ、何か大きな発見につながるかもしれません。大きな発見に繋がれば、自分の名前を水中遺跡の名前につけることも可能だったり?

 

 

ケニアと中国

何度か紹介していますが、中国はアフリカ東海岸の各地で水中考古学調査を試みているようです。鄭和の大航海の痕跡を探すことが目的ですが、本当に国を挙げて精力的に活動をしています。

その一環で、ケニアと中国は合同で訓練や調査を進めています。今年の11月からケニアのモンバサの近くの海域で合同発掘調査を行うようですが、中国船ではなく、ケニア(か周辺地域)の船で150-200年ほど前に沈没した船のようです。

今後もこの2国の水中考古の体制は強化されていくことでしょう。中国はがんばってますね。