水中考古学の薦め

人間の新しい環境に乗り出していく好奇心と挑戦心が物質的にあらわれたもの、それが“ふね”です。考古学は水中であれ地上であれ基本とすることは全く同じです。過去を愛する人、遺物を将来のために守っていく心を持った人の集まりが水中考古学を発展させていくことでしょう。トレジャー・ハンティングや水中考古学まがいのものが日本では認知されてきていますが、考古学の目的は遺跡・遺物の保護です。過去を大切にすること、それが第一原則です。今こそ日本人の海への関心を高めるべきです。地上の重力に魂を束縛された人間の心を解放し、水中遺跡の関心を高めていく。それが私の使命だと考えています。

2005年4月2日 Randall Sasaki

Archaeology Magazine

アメリカのArchaeology MagazineがYoutubeで著名な考古学者とのインタビューや遺跡の紹介などをしています。Institute of Nautical Archaeologyのプレジデントのデルガド博士とのインタビューがアップデートされていたので紹介します。ビデオは全部で3本。最初は水中考古学の紹介、2本目は日本の鷹島海底遺跡の紹介、最後はサンフランシスコ湾の海事関連の遺跡について紹介しています。

ちなみにYou tubeなど他のインターネットサイトには水中考古学の情報がたくさん探すことができます。特にビデオなどは簡単に情報を提供できるメディアとして活用されています。日本語ではあまり出てきませんが、英語で(Matitime Archaeology, Nautical Archaeology, Underwater Archaeology, Shipwreckなど)で探してみてください!

English Heritageとサザンプトン大学海事考古学研究所が協力体制

イギリスからのニュースによれば、文化財行政機関のEnglish Heritageとサザンプトン大学の海事考古学研究所が同国の海事、水中、沿岸遺跡に関する新たな研究体制の構築をするようです。ワーキンググループの設置を通じて、専門家やボランティアなどの組織、遺跡全般に対する包括的な理解を深めることを目的にしているとのこと。English Heritageは沈没船遺跡に関するガイドラインをすでに作成・公開していますが今後は海事・水中文化遺産全体にこうした動きが広がるのでしょう。

Maritime and Marine Historic Environment Research Framework

English Heritage has commissioned the Centre of Maritime Archaeology at the University of Southampton to co-ordinate the development of a research framework for the maritime, marine and coastal archaeology of England. The research framework will be shaped by those from the academic, commercial and voluntary sectors involved in the maritime, marine or coastal archaeology of England who will meet in a series of working groups to assess our current state of knowledge on a period-by-period basis and develop a research agenda outlining the gaps in our knowledge, strengths to build upon and future research priorities.

The resource assessment and research agenda documents produced by the working groups will be open to public consultation through a project website, and in addition a consultation group of ‘experts and practitioners in the field’ will be recruited to comment in detail on them. The final report will be ready for publication in July 2010.

Introductory seminars will take place on 9 June in London and 11 June in York. These short seminars are open to everyone and will introduce the scope, structure and methodology of the project as well as provide opportunity for discussion

フロリダの海底遺跡ミュージアム

アメリカでは各州によって海底遺跡や沈没船資料などへの対応が異なります。フロリダは政府による対応が最も充実している州の一つです。州政府で海事考古学者として働くロジャースミス氏が中心となって、沈没船遺跡の見学情報Shipwreck Trailが整備されてきました。その保護政策と遺跡の啓蒙の成果の一端がインターネットで公開されています。その名もMuseums in the Sea。18世紀のスペイン船の遺跡から20世紀の船まで、幅広い時代のフロリダ沖の海底遺跡を網羅しています。

鄭和の復元船(?)沈没

台湾の研究者などが主体となり中国明代の復元船を使い太平洋を横断した太平公主号が台湾到着を目前とし沈没したようです。貨物船と衝突が直接の原因だったようです。もちろん鄭和の船の細部まではわかりませんし、大きさもはっきりしません。どこまで正確なレプリカだったかは疑問です。ゴールを目前としての沈没で残念ですが、サンフランシスコからの行きかえりまでの間にも何度か嵐に遭遇したものの、無事だったそうです。船の性能としては信頼のあるものだったのでしょう。乗組員(日本人含む)全員無事だったそうです。このようなプロジェクトで昔の船の歴史的価値を高めることは重要だと思います。機会があれば考古学の成果を生かしより正確な復元船を作り帆走性能などを調べてみたいものです。

 

 

帆船で台湾と米国を往復する太平洋横断航海の記録達成を目指していた、16世紀のジャンク船を復元した「太平公主号(Princess TaiPing)」が26日、台湾沖で貨物船と衝突し、沈没した。沿岸警備隊が伝えた。

 衝突があったのは、は台湾北東部の蘇澳(Suao)港沖48キロの地点で、台湾警察と沿岸警備隊が、ヘリコプターと警備船で空と海上から、沈みかけていた太平公主号上で漂流していた乗組員11人を救助した。

 沿岸警備隊に救助された台湾人の劉寧生(Nelson Liu)船長は「今の気持ちは後悔どころではない。到着を目前にしていたのに」と悔しさをにじませた。

 沿岸警備隊員がAFPに語ったところによると、太平公主号はリベリア船籍の貨物船「チャンピオン・エクスプレス(Champion Express)」と衝突したが、衝突の原因は明らかになっていない。

 太平公主号は、中国・明朝の軍艦を復元した総重量35トンの船。乗組員は劉船長のほか、米国人6人、日本人2人、台湾人1人、中国人1人。台湾北部の港を前年6月に出発した後、北上して日本に寄港。その後、何度か嵐にあいながらも、5か月かけてサンフランシスコ(San Francisco)に到着した。

 この航海は、600年前の中国の偉大な探検家、鄭和(Zheng He)提督が北米まで航海したという仮説を証明しようという、劉船長とその支持者による試みだった。

ドイツフライベルク工科大学でワークショップ:International Workshop 2009: Research in shallow marine and fresh water systems

この5月にドイツの地方都市で水中探査に関わる国際的ワークショップが開かれるようです。水中考古学のみワークショップではありませんが、ワークショップで発表される技術は私たちの分野でも活用が期待されるものです。

フロリダ州立大学の人類学部閉鎖!?

関係者の話によれば50年以上の歴史を持つフロリダ州立大学 (Florida State University)の人類学プログラムの廃止が決定したようです。同プログラムでは過去船舶・海事考古学関連のプログラムが提供されていました。卒業生はフロリダ州の水中文化遺産保護に貢献してきた他、世界各地の発掘調査に関わってきました。海事考古学が目新しいプログラムでなくなった現在、欧米の研究機関では専門性を高めると共に、新たな研究テーマの開拓にも取り組む必要に迫られています。プログラムの重要性と価値をいかに大学と共有するかいった問題も絡んできます。

Twenty-one degree progams at The Florida State University, including the
Department of Anthropology, are on the chopping block. The department chair has been told to not accept any graduate students for 2009-2010. This
department has existed for over 50 years, and its archaeologists have
conducted cutting edge work on sites such as Windover, several 17th century
Spanish missions, numerous shipwrecks, and established the first underwater
archaeology program in the state of Florida, not to mention renowned work
throughout Mesoamerica.

アジア太平洋地域における水中文化遺産保護のためのネットワーク構築と人材育成

ユネスコ水中文化遺産保護条約では、地域間連携に基づいた効果的な水中遺跡の保護について規定しています。アジア・太平洋地域では水中文化遺産保護に携わる人材の育成が徐々に進んでいます。フリンダース大学の海事考古学プログラムはオーストラリア政府の支援を受けて、この問題について取り組んでいます。1ヶ国だけに焦点を当てる人材育成ではなく、複数の国から研究者を招聘して行う人材育成は、地域間の連携作りを発展させる試みでもあります。この試みが実を結ぶのはまだ先になりますが、文化遺産の保護と人材育成、地域間の連携は切り離すことのできない重要な問題です。

Flinders maritime archaeologist Associate Professor Mark Staniforth attended the inaugural Meeting of States Parties to the UNESCO Convention on the Protection of the Underwater Cultural Heritage, held in Paris during March. The 2001 Convention was activated with its ratification by a 20th national signatory in January this year.

With funding from the University, Associate Professor Staniforth represented two International NGOs at the meeting: the Advisory Council on Underwater Archaeology (ACUA)) and the Society for Historical Archaeology (SHA).

“The coming into force of the UNESCO Convention marks the beginning of a process whereby it will become an important international instrument for the protection and management of the world’s fragile, finite and irreplaceable underwater cultural heritage,” Associate Professor Staniforth said.

One article of the convention charges states with regional co-operation in the provision of training in underwater archaeology and conservation, and the successful Australian Leadership Awards (ALA) Fellowship Program recently run by Flinders was applauded by both ICOMOS (International Council on Monuments and Sites) and UNESCO.

ALA Fellowships are supported by AusAID, with recipients drawn from the public, private and community sectors of eligible countries for short-term study, research and professional attachment with an Australian host organisation.

The Flinders Maritime Archaeology Program has submitted a proposal to deliver another six-week ALA training program entitled Flinders University Intensive Program in Underwater Cultural Heritage Management in January 2010. Nominations have been gathered from eight countries in the Asia-Pacific: the Federated States of Micronesia, Indonesia, Pakistan, Papua New Guinea, Philippines, Sri Lanka, Vanuatu and Vietnam.

朝日新聞から水中考古学に関する記事

朝日新聞から水中考古学に関する記事が出ていました。諏訪湖の曽根遺跡、開陽丸の調査、近年のエルトゥールル号に言及しています。曽根遺跡論争などで知られる同遺跡は水中考古学の学史においても重要な遺跡です。湖底はシルトが厚く堆積し、調査には困難が予想されますが、未だ遺跡の厳密な範囲も確定されていません。エルトゥールル号は海外の研究機関が日本国内で主導的に水中調査を行った事例として重要な位置づけとなります。報告書の刊行が待たれます。

東京海洋大学のこの分野における「日本初の専門的な教育体制」について興味がある方は同大学のインターネット上のシラバス及びカリキュラムにて講義内容・ワークショップなどを確認してはいかがでしょうか。

朝日新聞主催の「海のエジプト展」はアレクサンドリア沖に沈む遺跡であり多くの注目を集めています。ユネスコ水中文化遺産条約に関する会議上、松浦ユネスコ事務局長も言及しています。フランク・ゴディオ氏が調査の指揮を取っており、エジプト展でも記念講演を行っております。多くの実績があるゴディオ氏ですが、フィリピンなどの調査ではフィリピン政府と合意の下、引き揚げ遺物の売買にも関係しています。「水中文化遺産の商業目的の禁止」を明文化したユネスコの同条約の精神とは相反するのではないでしょうか。

ユネスコ水中文化遺産保護条約について、そもそも日本の海洋政策のなかでは水中文化財・遺跡の研究や保護は真剣に議論されておらず、日本は国際的な水中文化遺産保護の機運の高まりから取り残されています。排他的経済水域や公海上の遺跡の取扱い以前に、現状の文化財保護法では、水中遺跡・文化財への特定の配慮はなく、領海内ですら、遺跡として認知され、保護に至るケースは稀です。

アジアの国々では、水中遺跡が遺跡資源として先進国のグループやサルベージ会社によって搾取されてきました。この構図は人材・設備・予算不足に悩む一部のアジアの国でいまだ変わりありません。ユネスコ水中文化遺産保護条約の基本理念となる水中文化遺産の「原位置保存の原則」は、単に水中遺跡を資源としてみるのではなく、その地域の共通の遺産として将来に残すべく定められたものです。

東京海洋大学

今まで日本国内で水中・海洋考古学を学べる機関は存在していませんでしたが、2009年度から東京海洋大学で正式に学ぶことが出来るようになりました!

日本国内の今後の学問の発達に向け大きく前進したこととなります。まだ小さなプログラムですが、海外から積極的に研究などを受け入れ、海洋考古学の発達に貢献していきます。FAQのコーナーでも紹介しています。水中考古学の修士号(名目的には博士号も)がとれることになり、今後、拡大を目指しているそうです。さらには、日本で修士号をとってから、博士課程をTexas A&M大学のような国外で続けるというコースも検討されています。

シラバスの内容は下記をご覧下さい。

海洋考古学とは考古学の一部門であるが、海洋学やそれ以外の自然科学の理論や方法論がその分析に援用される学際的な学問分野でもある。海洋考古学の基礎講座として位置づけられる本講義の第一の目的は、当該学問の理論的側面の検討と実際の水中考古学調査の際に表出する具体的な諸問題の検証である。そのために、まずヨーロッパ諸国やアメリカにおいて蓄積され、実践されてきている海洋考古学あるいは海事考古学の諸理論と諸調査事例の吟味を実施し、日本の水中考古学研究との現状比較分析につなげていく。その中で、海洋考古学調査の対象、水中文化財の発掘や具体的な応用手段、その歴史的な分析や解釈、文化財保全や復元の技術、社会への公開などの諸課題に対する取り組みについても検討を加えていく。次に、海洋学や海洋人類学などが研究対象としている人類の海洋における活動をさらに具体的かつ実際的に理解するために、この海洋考古学という学問にどのような貢献が可能であるのか、水中文化財の発掘・分析が今日いかなる意味を持つのかという総合的課題についても、ユネスコの「水中文化財保護条約」などの脈略の中で分析を行っていく。講義の参考文献としては、G. P. Bass著『Beneath the Seven Seas: Adventures with the Institute of Nautical Archaeology』 London: Thames & Hudson(2005)とJ. P. Delgado編『Encyclopedia of Underwater & Maritime Archaeology』New Haven: Yale University Press(1997)を使用予定である。

オランダ東インド会社アヴォンスター号Avondsterの復元

現在内戦が続くスリランカからです。スリランカの南部の都市、ゴールはポルトガル、オランダ、イギリスの植民の跡を港として世界遺産にも指定されています。植民統治時代の要塞と旧市街がその主な文化遺産です。要塞が臨むゴール湾では、VOC(オランダ東インド会社)船籍の沈没船アヴォンスター号が発見されています。沈没船の遺存状況は大変良好であり、原位置での保存が実践されています。ニュースはこの沈没船の模型復元に関するものです。以前にも紹介しましたがアヴォンスター号は日本に寄港したオランダ船であり、水中発掘調査では肥前陶磁が回収されています。現在開発が進むゴール湾の事業には日本の企業も参加しています。要塞、旧市街地と同様にゴール湾に沈む沈没船も遺跡群の一部です。正しい保存と研究の進展が進むことを願っています。