水中考古学の薦め

人間の新しい環境に乗り出していく好奇心と挑戦心が物質的にあらわれたもの、それが“ふね”です。考古学は水中であれ地上であれ基本とすることは全く同じです。過去を愛する人、遺物を将来のために守っていく心を持った人の集まりが水中考古学を発展させていくことでしょう。トレジャー・ハンティングや水中考古学まがいのものが日本では認知されてきていますが、考古学の目的は遺跡・遺物の保護です。過去を大切にすること、それが第一原則です。今こそ日本人の海への関心を高めるべきです。地上の重力に魂を束縛された人間の心を解放し、水中遺跡の関心を高めていく。それが私の使命だと考えています。

2005年4月2日 Randall Sasaki

台湾の水中考古学

ここ数年、台湾も水中文化遺産の保護に積極的に動いています。韓国や他の国々の水中の文化遺産の調査・保護の取り組みを見て自国領海内の文化遺産の保護の体制を作りつつあります。ちなみに、台湾がお手本としたのが、フランスの体制。トレーニングなども行っているそうです。裏情報(?)によるとアメリカの大学などにも視察に行っていたような…

国や大学、民間研究団体などが協力をし、台湾周辺では新しく80件ほどの水中遺跡が発見されているようです。2006年からは国が主体となりプロジェクトを進めているそうです。また、水中文化遺産保護の草案なども出来上がっているようで、ユネスコ水中文化遺産保護条約を意識して作られています。水中文化遺産保護に関する違反行為なども厳しく罰せられるようです。ユネスコといえば、つまりは原位置保存が第一オプション。考古遺物を含めた意味での環境の保全と開発との共存(原因者負担)をほのめかしているようです。

むやみやたらな引き上げや、お宝さがしなど言っている時代は終わっているようですね。

以下に、いくつかリンクを紹介します。日本語の資料は検索中です…英語・中国語ならいろいろあるようです。

台湾の水中文化遺産に関する法律その1

台湾の水中文化遺産に関する法律その2

去年のニュースですが、少し詳しく書かれています(英語)

台湾の水中文化遺産保護の法律についてのニュース

武蔵をどう保存するか?

つい先日、フィリピン沖で旧日本軍の戦艦「武蔵」が発見されたニュースが話題となっておりました。映像などを見る限り、間違いないそうです…

発見をしたのが、マイクロソフトとゆかりの深いポール・アレン氏。かなりの資産家で世界各地で様々な活動をしています。アレン氏によると、フィリピン、日本と協力し、お互いの感情を尊重した処置を取りたいとのこと。トレジャーハンターなどに発見されなくてよかった…現在、すでにフィリピン国立博物館と協議を行っているとのことで、館長さんも近々来日するとのこと。

さて、太平洋戦争の船は太平洋に広く存在しています。パラオ、ミクロネシア諸島などなど。中には、ダイビングスポットとなっている場所もあります。(さすがに武蔵のあるポイントは深すぎです) さて、しかし、実際にこれらの船に乗っていた人で亡くなった人もいますし、まだ遺骨も残されている場合もあります。これらを簡単に「遺跡」とか「ダイビングポイント」などと呼んでいいものではないと個人的には思います。しかし、例えば太平洋の島に住む人にとっては侵略行為に思えたかもしれませんし、また、現在はダイビングなど町の産業に欠かせない収入源となっている場合もあるようです。なかなか難しい問題です。

さて、日本側からの立場でものを考えると、遺骨収集、それに伴う発掘など様々な対応が考えられます。どのように対応するか、みんなが合意できる方法を考えるべきであると思います。今はまだ答えが出ないケースが多いようです。ですが、待っていると歴史・記憶が忘れられていくだけでなく、その痕跡も劣化していきます。特に鉄製品は水中では錆でボロボロに…水中の環境によっては木材のほうが長持ちするケースも多いようです。

これらの船舶をどうするのか?が問題です。放っておくと、どんどん劣化が進みます。それを食い止める手段はないのでしょうか?実は、水中考古学者は様々な海域で劣化していく遺跡をどのように保護していくかの研究を始めています。海底の酸素濃度、塩分、温度、pH、生息する植物やバクテリアの種類、海流などなど様々な要因が劣化の進行に影響を及ぼします。現在、戦争遺跡などを定期帝に「モニタリング」して環境や遺物の分析を行っています。

武蔵の沈む海域は比較的安定していると思いますが、それでも、劣化はかなり進行しているようです。今後、どのように対応するのか…劣化する鉄製の船を保存しようとする動きは軍艦だけではありません。有名なタイタニックも劣化のモニタリングを行っています。比較的新しい分野の研究ですので、まだまだ多くのことを学べます。今できることは、このような研究ではないのかと個人的には思います。

 

 

The Mongol Invasion of Japan

さて、日本では近年鷹島海底遺跡が有名ななってきていますね。特に数年前の元寇の船の船体の発見以来メディアでも話題となっています。

その鷹島の遺跡ですが、世界ではすでに10年以上も前から大きな話題となっていました。とある考古学雑誌では世界の水中考古学のトップ10にも入るほどです。これは、船体がまとまって発見される以前から世界では注目されていました。この遺跡を題材にドキュメンタリー番組も数回取材にきており、また、時折話題となっています。

そんな鷹島海底遺跡と元寇のついて紹介する本をこの度出版させていただきました。海外向けの本ですので、日本の読者にはあまり向いていないでしょう…元寇についての歴史なども書きましたが、日本の歴史を知らない人のための本となっています。そのため、残念ながら日本語版の出版には内容を大きく変えて、もっと詳しい研究が必要です…そのうちに違った形で日本の読者にも遺跡の紹介をできたら良いなと考えております。

とはいうものの、英語の勉強には最適?考古学・歴史に興味があり、また英語を勉強したい学生などには良いかもしれません。英語自体は決して難読ではないので…または、英語を読めるお友達にプレゼント?

The Origins of the Lost Fleet of the Mongol Empire   (Texas A&M University Press)  

トレジャーハンター逮捕

沈没船から財宝を引き揚げて一攫千金…という話は昔の話。今では世界の多くの国で立派な犯罪です。

ちなみに、今まで引き上げられた「財宝」で金銭的価値の高かったものはほとんど引き揚げた人々にとってはマイナスとなっています。違法に引き上げて遺物は没収され罰金の支払い請求など様々です。

さて、その中でも特にひどいのがこのケース。アメリカ・オハイオ州に住むトンプソン氏は、1857年に沈没したSSセントラル・アメリカ号に積まれていた金塊に着目し、引き揚げ事業を起こして出資者を募りました。多くの資産家が彼の事業に投資をし、見事に発見!ところが、いろいろあってトンプソン氏が投資者に約束の支払いをせずに逃亡。2年間におよぶ逃亡生活の末、ついに逮捕されたようです。

もう二度とこのようなことがないように願いたいものです。トレジャーハンター貴重な歴史・考古学資料の破壊行為です。そして、海難事故という多くの命を失った現場の破壊でもあります。確かに時間は過ぎていますが、そのような現場を私利私欲のために利用するのは許しがたい行為です。考古学者は、そこにある歴史を真に受け止めて後世に伝える努力を尽くします。さらに、この事件は現在生きている多くの人々(投資家など)を騙してしまいました。

それでもなおトレジャーハンターを美化する人々がいるのが残念です。そして、居場所を失ったトレジャーハンター達は水中文化遺産の保護に関して法律がなく、一般にもその考えが浸透していない地域に活動の場を移しています。ユネスコが水中文化遺産の保護を進めているため、そのような国や地域はほとんどなくなっています。しかし、日本がそのような場所であることを問題として捉えている人はどれくらいいるのでしょうか?

日本も水中文化遺産保護の機運が高まってきており、数年前に比べて研究の質や関わっている人の数も多くなっています。しかし、実際には水中の遺跡に関する特定の法律はないため、何かあった時に対応できない可能性があります。それを防ぐためには、人々が貴重な遺跡が日本近海には多く眠っていることに目を向けることに始まります。まだまだ多くの人が水中文化遺産の理解を深めることが必要だと思います。詳しくは、このウェブサイトやネットでいろいろな情報を探すことができます。

現在、把握されている日本の水中遺跡は500件以上あります。他国の数と比べると決して多くはなく、実際にはこの数十倍の遺跡があると考えられます。デンマークやオランダのような小さな国でも数千から数万件の遺跡があると想定されています。また、水中遺跡は調査が大変で費用が掛かるというイメージがありますが、スリランカなど決して日本と比べて豊でない国もしっかりと水中遺跡のマネージメントを始めています。あまりうまくは言えていないかもしれませんが、すこしでも水中遺跡(水中考古学)について考えていただける機会になっていただければ嬉しく思います。

原人の化石、台湾の海底沖から発見

ちょっと実はもの凄い発見が今ニュースで報じられています…まだ真相はこれからどんどん解明されていくのでしょう。

数万年前のものと思わえる原人の化石(下あごの一部)が台湾の沖で発見されていたようです。澎湖諸島周辺の海域で漁師の網に偶然引っかかって発見されたようです。

アジア、というか、人類の初期の歴史を考える上で重要な発見になりそうです。様々なニュースがネットなどで探せますので、詳しくは、そちらをご覧ください。ここでは、水中考古学の立場からひとこと。

もしかすると、海底の場所によっては数万年前の故環境・地形が有機物などを含めてしっかりと残っている可能性もありますね。日本の周りの海の底に大きな発見が眠っていることは間違いないでしょう。

とはいうものの、このような発見はそこまで驚くことではないと思っています。「ついに発見されたか!」というのが、私の個人的な最初の印象でした。そして、ニュースを読む前から、漁師によって発見されたんだろうなと思い、まさにその通りでした。水中では空気が遮断されるので有機物の保存は陸よりも格段に良好です。また、完全に砂に埋もれると、バクテリアなども活動ができないので、ほぼ完ぺきな状態で残っていることも考えられます。さらに、海の底ですと、開発や地形の変化からも比較的影響を受けにくい場合が多いようです。地殻変動や海水面の変化により埋もれた古地形は残っていて同然でしょう。埋没林など時々発見されていますね。

さて、次に漁師というのがポイントです。実は、世界の著名な水中遺跡のそのほとんどが、一般の人によって発見されています。新安沈没船、鷹島海底遺跡、ヴァーサ号、ウルブルン沈没船、などなど…すべて漁師さんなど一般からの情報提供により発見につながっています。逆に、「何も情報がない場所から考古学者が発見した水中遺跡」の名前を挙げるのは難しいです、なかなか思い浮かびません。

このような発見はまだまだ見つかる可能性があること、そして、水中文化遺産の認知をとして発見の漏れを防ぐこと。これが今後の考古学・歴史研究を発展させるうえで重要であると思います。もちろん、このような発見を報告する機関とその確認を行う機関の整備(法律などを含め)も必要でしょう。

原人 下あご 台湾 などで検索をすると、沢山ニュースが出てきます

水中考古学の魅力に迫る

九州の歴史・文化ポータルサイト、「かたらんね」がプロデュースするシリーズ「文化財で楽しむ九州アジア倶楽部」で、この度講演を行います!

タイトルは、「水中考古学の魅力に迫る」です。

以前、どこかでお伝えしていたので、日程の変更をお伝えします。

第1回 (変更前)2月14日(土)→(変更後)2月7日(土)
第2回 (変更前)3月 7日(土)→(変更後)3月29日(日)

場所はJR博多シティ9階 会議室3です。13:30分から受付開始、講演は14:00から2時間です。

第1回は世界の水中考古学を中心として、この学問の紹介をします。第2回は特に日本やアジアの遺跡について紹介します。もちろん、2回とも参加できればよいですが、どちらかだけでも内容が分かるようにプレゼンを考えて作っています。

水中考古学の魅力を知る良い機会だと思いますので、ぜひご参加を!

お問い合わせはこちらのフォームで。

オリハルコン!かも?沈没船から発見

ドラクエなどのゲームで登場することもある伝説の金属、オリハルコン。古代ギリシャなどの資料に時折登場するようで、実在したことは確かなようです。アトランティス伝説とも関連しており、科学的・歴史資料などからでは実証できない空想のメタルとして有名です。

オリハルコンは様々な金属を混ぜた合金であり、その製造技術は失われています。しかし、今回、オリハルコンではないかと思われるほかに例のない金属が水中遺跡から発見されたと報じられました。シチリア島近くで2600年前ほどに沈没した船から発見されたようです。

詳し分析などはまだのようです。実際にオリハルゴンであるかなどは検証する必要がありますが…ただ、このようなニュースは実際に調査にかかわった考古学者の手を離れてニュース記者、ブログライターなどによって誇張されて独り歩きしてしまう可能性もあるので、少し懸念しています。科学的(考古学)な話では、「珍しい金属が発見されたので検証をします」という状態です。今後に期待しましょう!

日本語のニュースです。詳しく書かれています。

こちらは、アーケオロジーニュース。実物の金属の写真も掲載されています。

日本語版ニュースの元ネタその1

元ネタその2

南海1号沈没船 発掘作業進行中

中国、宋の時代の沈没船である南海1号沈没船ですが、発掘作業がどんどん進んでいるようです。まだ詳しいことはわかりませんが、東南アジア・アラビア、そして、東アフリカにも運ばれた商品が積まれた船であったようです。この時代のごく一般的な商船であったのではないでしょうか。

ご存知の方も多いかと思いますが、沈没船を周りの土ごとごそっと丸々引き上げて、新設した博物館に持ってきてその場で発掘しています。世界的に見てかなり非現実的な、お金のかかる発掘作業方法です。また、遺物の保存処理の観点から見ても、果たして継続して保存していけるのか、また、引き上げたことによりどれだけ劣化が進んでいるのか、なかなか難しい課題が残されています。研究の成果やその歴史価値などよりも、引き上げたことに意義がある、そんな調査ですね…世界で真似できる国があるとは思えませんし、真似したいと思う国もないでしょう…さすが中国。

ユネスコは水中遺跡の管理方法に関しては一貫して現地保存を第一オプションとしています。これは、引き上げにかかる費用や保存処理の問題点を考えると、引き上げることなく水中でそのまま管理したほうが遥かに効率よく保存可能で、また引き続き研究していくことができるからです。

中国だけでもすでに多くの歴史的価値のある沈没船が発見されているので、この方法がこれから主流になることはないでしょうが、調査の経過を見守っています。世界にはすでに数千年前の沈没船から古代・中世・近代・現代など歴史・考古学的価値のある沈没船が数万隻発見され調査されています。南海1号沈没船よりも保存状況が良く、そして、文化的価値の高い沈没船もたくさんあるでしょう。その中で、なぜこの沈没船が引き上げられたのか…

いろいろと考えさせられる調査です…

日本語の(ショート)ニュース

英語(動画)ニュース

去年に続き…お正月から

今年もやってきましたね。昨年もお正月から時代感覚のないテレビ番組を放送していましたが、今年も第2弾があるそうです。来年こそはやめていただきたい。

ユネスコは水中文化遺産の保護を呼び掛けており、現在50か国ほど条約を受け入れていますす。ユネスコの条約を受け入れていない国でもその理念には賛同し合意している国も多くあります。日本は世界で数少ない水中文化遺産を保護(規定・規制)する法律がない国です。私の知っている限り、水中文化遺産について規定がない(いわゆる)先進国はありません。多くの人はわかっているとおもいますが、トレジャーハンター行為は世界の多くの地域では罰せられます。

まあ、エンターテイメントとして捉えて見ても面白いのかもしれません。しかし、他にも犯罪を美化して取り上げる番組があれば、そちらのほうが見る価値がありそうですね。どのようにして(またどのような)犯罪を扱うのか、興味があります。

沖縄の水中文化遺産

 本日は、ブックレビューです。南西諸島水中文化遺産研究会編『沖縄の水中文化遺産』です。

タイトルからすると、少し堅苦しそうですが、実はとっても読みやすい本なんです。ずっと語り聞かせるような、お話を聞いているような、(話術の巧い人のプレゼンを聞いている?)ような…スタイルで統一されています。沖縄(南西諸島)の水中文化遺産・水中考古学の魅力を聞かせてくれる本です。テンポもよく、飽きが来ません。筆者のこの学問に対する情熱と、いろんな人に読んでもらいたい!そんな思いが伝わる本です。

第1章では実際の一つの調査例から水中文化遺産の研究の方法を見ることができます。淡々と調査の結果を語るのではなく、実際のプロジェクトの発端から苦労した点など物語のように描かれています。水中文化遺産の調査は水中に潜っての調査が多いかと思いますが、実は文献資料の整理や聞き込み調査など様々な側面があることを教えてくれます。また、筆者自身が知らなかった事実をどのようにして解明していったかとプロセスとその努力についてドラマ(ドキュメンタリー)のようです。事実や意見だけを述べる専門書ではなく、筆者の学びのプロセスも隠すことなく書いているので、歴史の専門書は苦手な人でも面白く読め、そして、共感を得ることができるのではないでしょうか?また、歴史の本が好きな人でも新鮮に感じ、そして、共感する部分が多いと思います。

第2章では世界や日本の水中文化遺産の事例、そして、第3章では沖縄と南西諸島の水中文化遺産について書かれています。こちらも、自分たちが調査した遺跡についてはその発見方法や調査方法、苦労した点などについて書かれています。遺跡の紹介だけでなく、その発見が大きな歴史の流れの中でどのような意味を持っているのかを捉えて紹介しています。水中考古学というと、どうしてもその特異性から「水中で発見されました、はい、すごいですね」で終わってしまうイメージがあるようです。特に、ニュースなどのメディアなどは「発見」だけがトピックとなってしまいがちなのですが、この本はちゃんと一歩踏み込んでくれます。沖縄の歴史についても初心者にわかりやすく情報を伝えてくれます。

そして、最後の第4章。水中考古学のメソッドなどについて書かれています。この本を通してのことですが、調査の様子などをわかりやすく、筆者の体験をもとに解説しています。水中での調査だけでなく、陸上の調査や文献資料なども詳しく書かれています。水中考古学とは、つまり特殊な学問ではなく、誰でも参加できる学際的な歴史の探求であることがよくわかると思います。

沖縄にある数例の遺跡の紹介ですが、水中考古学の世界がよくわかる1冊です。日本語で書かれた水中考古学の本はいまのところまだ珍しいので、ぜひとも読んでみたいですね。水中文化遺産はごく身近な存在であり、国民全体が共有の財産として保護していく必要がある貴重なモノであることを感じ取ってもらいたいです。

表紙もかっこいいです…