水中考古学の薦め

人間の新しい環境に乗り出していく好奇心と挑戦心が物質的にあらわれたもの、それが“ふね”です。考古学は水中であれ地上であれ基本とすることは全く同じです。過去を愛する人、遺物を将来のために守っていく心を持った人の集まりが水中考古学を発展させていくことでしょう。トレジャー・ハンティングや水中考古学まがいのものが日本では認知されてきていますが、考古学の目的は遺跡・遺物の保護です。過去を大切にすること、それが第一原則です。今こそ日本人の海への関心を高めるべきです。地上の重力に魂を束縛された人間の心を解放し、水中遺跡の関心を高めていく。それが私の使命だと考えています。

2005年4月2日 Randall Sasaki

読売新聞の記事について…

8月25日の読売新聞に水中考古学について記事が載っていた。オンラインではごく簡単に触れているだけだが、実際の新聞記事はもう少し掘り下げて書かれていた。

内容であるが、基本的には今までのニュース記事と同じである。近年、長崎県鷹島で発見された元寇の沈没船が話題を呼び、注目を集める水中考古学。日本には知られている水中遺跡は500件ほど。だが、世界の水中遺跡のマネージメントに比べ日本は遅れている。特に国として方針があるわけではない。しかし、水中での発掘には莫大な費用が掛かるので国としての対策が必要だと…

特に新しいことは書かれていないが、水中考古学を知らなかった人にとっては面白い記事だろう。ある一点を除いて特に間違った情報もなく、この学問に好意をもって書かれているようだ。さて、その間違い(?)だが、水中での発掘は陸の発掘より10倍の費用が掛かるというくだり。

何をもって10倍としているのか不明である。遺跡の範囲のことだろうか?水中遺跡の特色、果たしては考古学という学問の特徴を全く理解していない全く見当はずれな意見に思える。もちろん、このような考えが未だに存在しているのは、我々水中考古学者がしっかりと情報を伝えきれていないという側面もある。そのため、このブログを持って少しでも役に立てたらと考えている。

水中遺跡は有機物の保存状態が良いので、陸上の遺跡からは普通には発見できない遺物が多く見つかる。陸上の遺跡をいくら掘っても発見できないような遺物も水中には眠っている可能性もある。また、沈没船などは一括性の遺物・遺跡であり、その当時の時代をそのまま映し出す存在であり、歴史的・考古学的に研究価値のあるものである。例えば、古代の沈没船で三角縁神獣鏡を運んでいた船が見つかったとしよう。この遺跡の範囲は大きくはないだろうが、計り知れない歴史的価値があろう。

しかし、これは、あくまで発掘をするとなった場合の話である。現在、世界では水中遺跡は発掘をしないで現地保存が基本となるつつある。ユネスコも現地保存を第一オプションとすることを薦めている。また、水中考古学マニュアルの類には、水中での発掘方法はほとんど触れていない。逆に、開発などでやむを得ない場合にのみおいて行う行為であり慎むべきであると書かれている。

水中遺跡も陸上と同じように開発との共存の道を取る。つまりは、開発などをおこなう原因者(工事会社など)が発掘の費用を負担する。陸と全く同じ考えだ。世界では、特に陸と水中の遺跡を区別していない国が多くなっている。ちなみに、日本の法律には水中遺跡について言及されていない、世界的に珍しい国である(他のアジアで水中遺跡についての法律がない国はモンゴルと北朝鮮)。工事会社は、もちろん発掘に費用をかけたくない…つまり、工事建設予定地に水中遺跡があった場合はその場所を避けて工事をする、新しい建設プランを建てる。

欧米などでは水中遺跡のありそうな場所や、今までの工事や他の産業から得られたデータを集約し、水中遺跡のデータベースを作成している。このデータベースは国や地方自治体が管理していることが多い。海の上に建設を行いたい会社はこのデータを基に、水中遺跡がなさそうな場所に工事をする。もちろん、工事の前には事前審査(サーヴェイ)を行う。アメリカ・メキシコ湾では油田のパイプラインに伴う工事で2000件以上の水中遺跡が発見・登録されている。音波探査機など水中を見ることができる機器はここ数年飛躍的に進化し、値段も安くなっている。すでに、ソナーなどは個人で購入できる値段となっている。

基本的には、陸と水中の遺跡のマネージメントは変わらない国が多い。開発に伴う緊急発掘が現実で、その費用は工事会社の負担となる。ただし、水中の大きな違いは、建設のプランが比較的自由に変更できることにある。陸の場合、ビルを建てるとなるとその建設予定地を変えることは難しい。しかし、海の上はそれが容易だ。事前審査をしっかり行って水中遺跡を壊さない場所に施設を移動することに建設会社にとって大きな負担とはならない。逆に、遺跡を破壊してしまった時のほうが会社のイメージダウンなどにつながる可能性もあり、それは避けたいことであろう。

少々長くなったが、結局一番書きたかったことは、水中遺跡のマネージメントはそれほどお金を必要としないということ。世界の水中考古学は、これらの開発を行う会社と共存をすることにある。そのシステムに国や地方自治体の協力が必要である。水中遺跡が発見された場合に、その価値を吟味し、そして、真に学術的価値の高い遺跡があった場合において発掘を行うのだ。

以上を考えると、ビルなどの開発のプランがあり、その範囲内に遺跡があったら発掘を行うことが当たり前となっている陸上の遺跡のほうが極端にお金がかかるように思える。開発のプランが提出されても、実際に発掘を行うことが少ない水中遺跡は効率が良いと考えられる。

水の上で開発を行う際にサーヴェイなどの義務化、水中遺跡のデータベース作成など、国や地方自治体ができることは充分ある。今、日本はようやくその道を模索し始めている。

 

 

 

 

 

 

NHK 歴史秘話ヒストリア 海賊の町

17世紀、カリブ海で繁栄した海賊の町があった。現在のジャマイカ、ポートロイヤルだ。回りをスペイン領に囲まれながらイギリス領の島として栄えた。おなじみ映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』でも登場する町だ。当時、この町の地価はロンドンよりも高かったらしい。しかし、海賊が集うこの危険な町は、地震によって起こった液状化現象と津波で壊滅してしまう。町の大部分が海の底に沈んでしまった。

20世紀にはいり、ダイビングの技術が発達すると、旧ポートロイヤルの海底に沈んだ町があることが判った。その後、水中考古学の学術調査などが行われ、様々な歴史の謎が解明されていく…

さて、そんなポートロイヤルについて、NHKの歴史番組、『歴史秘話ヒストリア』が特集を放送するそうです。このサイトの管理する私も少し協力しました。実はこの遺跡を発掘したテキサスA&M大学は私の母校でもあり、この遺跡から発掘された遺物のいくつかは私が保存処理を担当したこともあります。

なかなかおもしろそうな内容ですので、是非ご覧あれ!ビデオ予約もよろしくお願いいたします!再放送も見逃さずにね!

 

NHK 歴史秘話ヒストリア

よみがえる幻の海賊都市

平成26年8月27日(水)22:00~

再放送:翌週水曜00:40~(火曜深夜)

沖ノ島・宗像大社を世界遺産へ

沖ノ島・宗像大社関連施設(遺跡)などを世界遺産に登録しよう!という動きがあるのをみなさんはごぞんじでしょうか?

沖ノ島は九州の沖に浮かぶ海の正倉院などと呼ばれる島で、島全体が御神体とされています。アクセス制限が厳しいので有名ですね。縄文・弥生など貴重な遺物が数万点発見されています。この沖の島と対岸の宗像大社など日本の歴史・文化を知るうえで貴重な存在です。九州から約60キロ離れた玄界灘に浮かぶこの孤島…その周辺など水中遺跡(主に沈没船)が相当あるのではないでしょうか?そんな場所をソナーなどで探査し、遺跡を発見出来たらどんな遺物が発見されるのでしょうか?

海の正倉院へ向かう船にはどんなものが積まれていたのでしょうか?海の中ですから有機物の保存が良好です。そのため、陸では完全に腐って見つかることのない珍しい遺物も多くあるのではないでしょうか?国宝級の発見が期待できるのかも…

そんなプロジェクト、現実のものにしてみたら面白そうですね!海事・水中考古学の魅力もアップするのではないでしょうか?

アジア水中考古学研究所西日本会員連絡会のお知らせ

9月に福岡で水中考古学の講演会を行います!皆様の参加をお待ちしております!

2014年度・第1回 アジア水中考古学研究所西日本会員連絡会(水中文化遺産研究報告会)

を下記の内容で開催します.

日 時:9月27日(土) 14:00~17:30

場 所:福岡市埋蔵文化財センター(研修室)

http://www.city.fukuoka.lg.jp/maibun/html/guidance.html

「ミニシンポジウム:アジア太平洋地域水中文化遺産会議からのメッセージ

報  告:

1.「世界の水中文化遺産保護の取り組み」

ランディ・ササキ(アジア水中考古学研究所会員)

2.「アジア太平洋地域水中文化遺産会議から見えてきたもの」

今林 隆史(RKB毎日放送)

3.「南西諸島の水中考古学:現在の到達点と未来への展望」

片桐 千亜紀(アジア水中考古学研究所理事)

4.「水中文化遺産としてのアリゾナと記憶としてのアリゾナ」

中西 裕見子(大阪府教育委員会)

パネル・ディスカッション:

1.「これからの日本の水中考古学」

岩淵 聡文(アジア水中考古学研究所理事)

2.総合討論

水中考古学に関する講演はなかなかないので興味のある皆様にはとても良い機会だと思います。また、興味のない人にこそ来てほしいと思っています。というのも、水中遺跡を発見するのはほぼ決まって考古学者以外の人です。海を大切にする人、海と関わる仕事をしている人に参加してほしいと思っております。

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海の日ですね~

本日、7月20日は海の日と制定されています。

海の日は割と最近できたコンセプトですね。日本人の海離れが進んでいます…海離れについては、ここでは改めて書きませんが、多くの人が海に行く機会が減っているようです。海が嫌いな子供や海で遊んだことがない若者が増えているようです。最近、海に行った人はどれくらいいますか?海水浴だけなどではなく、本当に海と時間を共にした人はどれくらいいるのでしょうか?

四方を海に囲まれた島国である日本。海岸線の長さも世界6位です。アメリカ・中国・オーストラリアなどよりも日本のほうが海岸線が長く、多くの人にとって海は本当は身近な存在です。世界では海を見たことがない人がいますが、日本人で海を見たことがない人はいるでしょうか?それほど日本人と海は本当は深くかかわってきたのです。逆にあまりに生活の一部として身近であり、その大切さを忘れているのかもしれません。

さて、水中考古学ですが、海外では海事考古学(Maritime Archaeology)と呼ばれているのが一般的です。人類と水域(海・川・湖など)とどのようにかかわってきたかを学ぶ学問として捉えられています。つまり、その研究対象は港、船、人々の海産物の利用(釣りなど)、そして、水域を介した交易や戦争の歴史などです。つまり、船が山の上にあればそれを研究します。たまたま研究の対象となる遺跡・遺物が水没していることが多いために水中考古学と呼ばれることが多いのですが、日本では特に「水中の発掘の専門屋さん」としての間違ったイメージが定着しているようです。

この海事考古学は海からの視点で歴史を眺める学問です。実は水中海事遺跡は身近なところにたくさんあります。琵琶湖だけでも100件に及ぶ遺跡があります。長崎県には元寇で有名な鷹島五島列島(牡鹿島)にも遺跡はあります。長崎市内でも博物館や出島でも海や船に関する遺物などが展示されています。沖縄県にも水中遺跡は数件あります。また、鎌倉には鎌倉時代の港跡である和賀江島、千葉県には勝浦のハーマン号御宿のサンフランシスコ号、和歌山県串本のトルコ軍艦静岡県にも水中遺跡はいくつかありますし、北海道江差の開陽丸、瀬戸内海では水の子岩坂本龍馬のいろは丸など。村上水軍関連のスポットもいいかもしれませんね。

夏休み、水中・海事遺跡を見に行きませんか?

近場の水中・海事遺跡について実際に見に行きたい、知りたいという方がいればお気軽にお尋ねください!

メールはこちらへ(shipwreckarchaeology@gmail.com)

 

 

文化遺産の眠る海~電子書籍でも

東京海洋大学の岩淵教授が書かれた水中考古学の専門書、『文化遺産の眠る海』が電子書籍化されました

興味のある方は是非ご購入を!

水中考古学についてもっと詳しく知りたいと思う方には必読の書です。少し難しいかもしれませんが、水中考古学の詳しく正しい知識を得たいとおもえば現在のところこの本しかありませんね。『沈没船が教える世界史』などを読んで物足りなかったり、もっとこの分野について知りたいと思った方はどうぞ。また、考古・歴史を学んでいる学生、大学院生、もちろん大学の教授や行政担当の人も水中考古学は聞いたことがあるが良くわからないと思っている人には是非読んでいただきたい良書です。

もちろん本屋さんやアマゾンでも買えます!

水中(海事)考古学:無料オンラインコース!

イギリスの水中考古学の名門校、サウスハンプトン大学で面白い企画が…水中考古学の最前線を無料で、しかも、大学のオンラインコースとして学べます!

10月から4週間のコースですが、水中考古の最前線の授業が受けられます。人類がどのように海(湖や川を含む)と関係を保ってきたか、また、どのように利用してきたかを学びます。ポリネシアの航海術、インド洋、地中海交易、大航海時代、そしてメリーローズ号、ヴァーサ号、タイタニック号などについて学びます。

誰でも授業を受けられるようです。英語が多少できなくても、興味本位で受けてみても良いのでは?

詳しくはウェブサイトで。

 

ユネスコ水中文化遺産保護~ガイアナ共和国。48か国

クイックニュースです。

あまり名前も聞かない国ですが、南米のガイアナ共和国がユネスコの水中文化遺産保護法を承認しました。これで48か国。

スペインとトレジャーハンターと考古学。現地保存も…

数年前、アメリカのトレジャーハンター会社が沈没船を引き揚げ、莫大な量の銀貨が発見されたニュースを覚えているでしょうか?その後、時価数億円と言われた遺物をスペイン政府が自国の船であり、文化財保護の観点から遺物の返還を要求しました。その後の裁判において、スペイン政府が勝訴し、遺物はスペインのものとなりました。現在、その遺物が展示されているようです。

さて、そこで、良く聞かれるのが、トレジャーハンターの言い分です。今日は、ちょっと詳しく水中考古学者の観点から見てみましょう。

トレジャーハンターの言い分・・・沈没船の発掘には莫大な費用が必用。いま引き揚げなければ数年後には盗掘や台風・津波、底引き網や開発などで失われてしまう。莫大な費用の見返りとして遺物の売却が必要である。すべて記録として保存・研究ができるので、歴史にも貢献できる。引き揚げないと遺物も歴史も失われてしまう・・・ということが良く聞かれるが果たしで本当でしょうか?

考古学の立場

確かに莫大な費用が必要で、それは船を丸ごと引き揚げる場合。また、一度引き揚げると保存処理などを行う必用があり、永続して湿度・温度を管理する必要があり、非現実的な方法であることは確かです。現在の考古学の常識では船を丸ごと引き揚げることは中国など一部の力のある国でしかおこなうことはできません。水中遺跡は現地で非破壊調査による記録を行い、現地保存を行うことが常識となりつつあります。ユネスコ水中文化遺産保護では現地保存を第一オプションとしています。Nautical Archaeology Societyの水中考古学トレーニングマニュアル(200ページ)にも水中の発掘は『他の方法で保存できない場合のやむを得ない』行為として紹介し、数ページしかその方法について書いていません。

現地保存とはなんでしょうか?そのメリットは?水中遺跡は海底で砂に埋もれていれば保存状態は良好であり、数百年単位で保存が可能であると考えられています。(数千年前の沈没船も発見されていますし…)つまり、遺跡を安定した状態に置き、バクテリアの活動や砂の動きなどをモニタリングし、常に遺跡を安定した状態に保つことにより、お金をそれほどかけずに遺跡を保護することができる、といえます。しかし、この方法では何も研究できない!と思うかもしれません。しかし、実際には非破壊(非発掘・小規模トレンチ)調査でも充分研究ができます。

沈没船を丸ごと引き揚げると確かに膨大な資料が手に入ります。もちろん、これらの情報を今すぐにでも得たい気持ちもあります。それでは、例えば、陸の場合の考古学を見てみましょう。同じような状況が考えられないでしょうか?(我々水中考古学者は「水中と陸」の考古学の境をなくすことが目標。しいていえば、水中考古学者と呼ばれることに一番抵抗を感じるのは水中考古学者自身。実際にこの名称は対外的な名前で、水中考古学と自分では呼ばない研究者が多いです~この点に関しては後日解説しましょう!)膨大な量の考古学資料を得られる遺跡として、平城京跡地を見てみましょう。今、平城京跡地をすべて完掘する計画を国民は受け入れることができるでしょうか?もしくは平安京、博多遺跡群など。同じような莫大な資料を得るとともに、莫大な費用も掛かるし、研究も追いつかないでしょう。そのため、陸では開発行為がある場合においてのみ調査が行われる場合がほとんどです。これらの陸の遺跡を発掘するための費用を出土した遺物を売ることで賄うという考えは生まれますか?それよりも今、発掘できるところを小規模ながら進めていき、研究もすこしづつ進めていく方法を取っています。これが陸であれ水中であれ考古学という学問が置かれている状況にあると思います。そのための現地保存があります。

水中遺跡の多くは開発との共存が比較的楽であることが考えられています。海の上に構造物を建てる際には多くの場合、数10メートル単位でプランの変更をすることが可能です。実際に、アメリカ・メキシコ湾では、海の上に構造物をつくる際には考古学の事前調査を行うことが義務化されており、油田から敷かれたパイプライン工事の事前調査などで2000件以上もの水中遺跡が発見されています。他の国々でも、工事に先立ち水中遺跡が発見されるケースは多く、それらの遺跡を保護するため工事の計画を少しずらして行う場合がほとんどです。この場合、遺跡の特徴など非破壊調査で記録を残すことが重要です。

さて、現地保存のメリットをもう少し見てみましょう。遺跡保存の考え方の一つに活用という観点があります。地域に遺跡の重要性を知ってもらい歴史を守る大切さを考えてもらうこと、とここでは簡単に説明をします。無機物など比較的水中で安定した状態にある遺跡は一般公開をし、地元だけなく観光客を相手に遺跡ツアーを行っている場所も多くあります。太平洋やカリブ海の小さな島などはダイビング産業で地域の経済が成り立っている町や村も存在しています。そこに住む人々にとっては大切な文化資源として水中遺跡があります。その経済基盤を研究目的で莫大な費用をかけて引き上げることはできるでしょうか? それよりも、地域と協力をし、可能な限り現地で保存をしながら研究を進めることが最善であると考えられます。もちろん、定期的に訪れる研究者も地域の経済にプラスの効果をもたらすので、お互いの関係は継続してプラスになっていくことでしょう。

少し余談になりますが、世界の海難事故のデータを見ると、沈没事故の9割は港の近くなど水深50mよりも浅い場所で発生しています。つまり、陸に近く今でもアクセスしやすい場所です。陸に近いと実は水中遺跡の保護には向いていません。溶け込んだ酸素の量が多く(有機物が腐りやすい)、また、砂の動きも多く、ダイバー、漁業、開発なども遺跡の破壊につながることが多々あります。そのため、しっかりと水中文化遺産の保護の観点から遺跡の場所を把握し管理することが最も望ましいと考えられています。その逆に、深海(公海)には沈没船はほとんどありません。深い海ほど遺跡は安定した状態にあり、今、手を付けなくとも数百年その状態を保つことができると考えられています。安定した状態にある遺跡を掘る必要は特別歴史的価値のある遺跡でない限りあまり考えられない、というのが考古学者の考え方のようです。

ここまで少しダラダラと文章をつづってきたが、まとめてみましょう。遺物を引き揚げ売却を行う行為(または場合によっては地域の現状を考えない研究行為)は、その時だけは誰かが得をするけど、継続してみんなが共有することはできなくなります。また、遺物の金銭的価値を基準とするため、本当に歴史的価値のある遺跡が発掘されるケースも少なくなります。大量生産された商品は考古学・歴史価値が少ないので、あえて発掘する必要はあまりありません。水中遺跡で行う研究は、1)遺跡がどのように地域の人々と関わっているか、2)遺跡がどれだけ安定した状態であるか、3)非破壊調査や小規模発掘などからどのようような歴史・考古学価値のある遺跡であるか、などを主に考えることが第一目的です。それらの情報をもとに、どのように保存・活用していくかを考えます。様々な条件を吟味し、もしくは、発掘というオプションも考えられます。その場合、遺物は地域に還元するために博物館などでしっかりと管理されるべきでしょう。

トレジャーハンターには困ったもんだ。考古学ではないのだから…

1857年9月、アメリカ・カリフォルニア州の沖でニューヨークに向かう途中の船がハリケーンに遭遇し、沈没。乗客や乗組員含め425名の方が亡くなりました。この船、SSセントラル・アメリカ号は様々な理由で現在でもとても有名です。

ここ数日、日本の某テレビ局など数社で似たようなニュースが報じられているようですが、アメリカのトレジャーハンティング会社がこのSSセントラル・アメリカ号から金塊をサルベージしたそうで、売却すると相当な金額になるようです。

もちろん、これは考古学調査ではないので、残念ながら歴史的資料はあまり得ることができません。また、この沈没事故で亡くなった多くの方々への配慮を考えた行為であるとは思えません。悲劇の事故のはずなのですが…注目を浴びるのは積まれていた金塊で、それも売却して個人的にお金を儲けるためだけの行為。

実は、この船は20年ほど前に別のトレジャーハンターが一部引き上げを行って一躍有名になりました。本なども書いています。しかし、スポンサーに配当金を払うはずだったそのトレジャーハンターが金塊を持ち逃げ指名手配となっています。未だに見つかっていないそうです。金塊は溶かして闇ルートで売られたのか?本人はどこに?

先日からニュースとなっている韓国の沈没船。タイミング悪く水中考古学のネタを放送する予定だったポケモンはテレビ局が放送を自粛・延期(中止)しました。また、WOWOWも映画タイタニックの放送を延期。そのような中で、このようなニュースを扱ってしまって良いのか?また、一部ではありますが、この行為を考古学と勘違いしている人もいるようです。

ちなみに、来週からハワイでアジア・太平洋地域の水中文化遺産の保護を呼び掛ける学会が開催されます。UNESCOの水中文化遺産保護条約や人道的・考古学的な水中遺跡(沈没船を含めた)を知る上では良い機会ではないでしょうか?アジア・太平洋地域から多くの水中考古学のエキスパートが集まります。インドネシアやスリランカなど近年水中考古学に力を入れている国からの発表などいろいろと新しい情報が聞けることでしょう。報道機関・関係者の方にもそろそろ本当の水中考古学を知ってもらう良い機会であると思います。